【書評】小さなチーム、大きな仕事(ジェイソン・フリード、デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン)【54冊目】

概要

常識の逆、つまり会社を小さく保つ術を説く経営書。by 37 signals

2010年当時はこれが最新の「哲学」で、本屋に平積みされていた。原題は”Rework”。労働に対する世間の常識を疑い、労働を組み立てなおすという本だ。

この本は売れた。なんといっても37 signalsという会社は、Ruby on Railsを作った会社だからだ。

目次

本書は何の本で、何が言いたいのだろうか。本書はカリスマ経営者が書いたものだけに引き込まれるものがあり、読むだけでハイテンションになってくる。これはこれですごい才能だが、冷静に読むと脈絡が難しい。

そこで目次に戻ってみようと思う。

  1. 見直す 常識を疑うことを説いている。
  2. 先へ進む スモールビジネスを今すぐ始めろと説いている。
  3. 進展 本質にのみフォーカスし、製品の核を育てる方法を説いている。
  4. 生産性 より少なく働き、無駄をそぎ落とすことについて説いている。
  5. 競合相手 本質で勝つために、それ以外はすべて競合相手以下に抑えるべきと説いている。
  6. 進化 顧客の声を否定し、アウフヘーベンすることから現状脱却が生まれると説いている。
  7. プロモーション 大々的な広告でない、効率的なプロモーションについて説いている。
  8. 人を雇う 最高の逸材のみを雇い、人を増やさないべきだと説いている。
  9. ダメージコントロール 素早く対応することで最小労力でダメージを軽減すべきと説いている。
  10. 文化 本物の文化を自然に育てる方法について説いている。
  11. 最後に ひらめきは今実行しなければ賞味期限を過ぎてしまうと説いている。

つまり、これは読者が会社を作って、軌道に乗り、文化が定着するまでに「気を付けるべきこと集」である。ただ重要なのが、このまとまりのない本の底に流れる彼らの信念。

「小さい組織であり続けることの計り知れないメリット」

だ。

【書評】SOY!大いなる豆の物語(瀬川 深)【53冊目】

概要

大豆をめぐる冒険小説。

筑波大学を出たが鬱病でわずか1年半でSE会社を辞めてしまった原陽一郎。仲間とともに同人ゲーム作りに精を出すさえない彼に、パラグアイの日系大富豪の遺産管財人の立場が舞い込む。彼はグローバル穀物メジャーSoyysoyaの長。しかしそのプレッシャーに陽一郎は耐え切れず、大富豪のルーツを追って果てしない探求の旅に出てしまい・・・

そして世界は大豆により終焉を迎える。

大豆は時空を超えて、岩手、満州、パラグアイを駆け巡る。

著者の凄まじい博識に感心するとともに、とても勉強になってしまう謎の小説だ。

【書評】アホでマヌケなアメリカ白人(マイケル・ムーア)【41冊目】

概要

元アメリカ大統領ブッシュをバカにする本。

わざわざこの本が出た15年後に買って、読んでしまったのは私ぐらいのものだろう。

マイケルムーアのアジる能力は、本物だと思った。

が、この手の陰謀論はほぼ当たらないのだなあと思ったのも事実。なんだか侘しい気持ちになった。

【書評】牛肉資本主義 牛丼が食べられなくなる日(井上恭介)【37冊目】

概要

牛丼のこまめな値上げの裏にある、グローバルな変化を解説した本。

ジグレール教授の本にもある通り、穀物価格はファンドの先物取引の影響を受け、牛肉の価格はそれによって大幅に値上がりする。

しかし、最近の牛肉の値上がりには、実は中国が絡んでいるのだ。

中国の肉輸入量は、2014年時点で日本の2倍を突破。中国では伝統的に豚と羊と鶏が料理に使われる。しかし、今各地にステーキブームが起きており、どんどん牛食化が進んでいるのだ。

どんどん貧乏になる日本。どんどん豊かになる中国。単純に、高い価格を提示され、中国に日本が買い負けているという構図が生まれている。

ほんの40年前には全く考えられなかったことだが、お金がないために、牛肉が気軽に食べられなくなる日がやがて来ることはもはや確実なのだ。

【書評】グローバル資本主義を卒業した僕の選択と結論(石井至)【23冊目】

概要

東大理Ⅲ出身の著者が投資銀行に入り、2年目で年収5000万を叩き出し、32歳でアーリーリタイアした。いったい彼は何を考えて働き始めどういう結論に至り仕事を辞めたのか。

もう概要だけでほぼほぼ紹介を終えてしまったのだが、読んでいてこの人は本当に頭がいいなあと感心する。こういう人の思考回路を垣間見て見るのも、面白いのでは。

ところで、なぜ2年目で5000万円もらえる人がいるのだろうか。それは、業種間格差があるからであると思われる。マネージャーは数億貰っていたと書いてあるから、当時この業種では5000万円は平均以下だったのではないか。

もう長い歴史で証明されているように、資本主義と金融経済は富を偏らせるシステムである。そのことを20歳くらいまで認識していたかどうかで、人生は大きく変わってしまう。

資本主義は残酷と言えば残酷だ。

【書評】世界の半分が飢えるのはなぜ?(ジャン・ジグレール)【22冊目】

概要

発展途上国の飢えが人災、具体的には軍政の腐敗と投機市場の暴力によるものであることを喝破する。

「好き嫌いをいうなら、アフリカの飢えている子供達にあやまりなさい」

そう言って子供を叱る親は罪深い。飢えという問題の本質を理解せず、間違った情報を利用して、未来を担うべき子供に教育しているのだから。そして、自分の間違いに薄々気付きつつ、躾がしやすいからという身勝手な理由で、それを悪用しているのだから。

子供に飢えの本当の理由を理解させようというジグレール教授の試みは、画期的である。

飢えの原因が、軍政と先進国である資本主義諸国の市場操作であることを認識していれば、アフリカに物資を補給しても、殆どは軍に略奪され、大衆に行き渡らないのがわかる。また、食料を輸入する際に、市場が変動すれば、小麦の量がレートに反比例することがわかる。誰かが儲けるために誰かが餓死するという、死のトレードが毎日公然と行われているのが資本主義社会だとジグレール教授は言う。

無責任な大人にならないために、この本を読んでおきたい。

【書評】アメリカの鱒釣り(ブローティガン)【19冊目】

概要

天才が書いた短編小説。

どの話も2ページほどで、最長でも10ページほどである。

アメリカの鱒釣りの詩的世界は、言語の中にしか存在しない世界だ。どうしてもこの小説を現実の世界でやると、どういう光景になるのか想像がつかない。

こんな小説が書ける人間が他にいるのだろうか。

困ったことに、単にユーモアと見ても抜群に面白いのだ。しかも全体を貫く通奏低音のようなテーマもある。鱒なのだが。

世界で最も面白い短編小説の一つであるに違いない。

【書評】どこにもない国(アメリカ作家)【18冊目】

概要

幻想小説のアンソロジーなのだが・・・

この本に収められている作品は本当に奇怪である。どこで起きたのか?いつ起きたのか?なぜ起きたのか?なぜそんなことを思いついたのか?全くわからない話ばかりだ。しかも単純に面白い。

個人的に、小説や映画といったものは、そのストーリーが全く聞いたことがないものであるという評判がなければ観ないようにしている。

またこのパターンか、と思って失望するから。

同じような価値観の人には、これは鉄板だと是非推薦したい。

【書評】グローバル・マインド 超一流の思考原理(藤井清孝)【16冊目】

概要

マッキンゼーからハーバードビジネススクール、ウォール街、大企業の経営者、シリコンバレーへという超一流の経歴を突っ走ってきた著者が、自伝を通して、日本の教育問題「正解への呪縛」を提起する。

著者は新卒で三菱商事を蹴ってマッキンゼーに入り、ルイヴィトン日本支社の社長などをしていた人。

中身はまさに「超一流の思考原理」で、こんな考え方をする人がいるのかという実例が並んでいて面白い。

世界のほとんどの富を握っていると言われる富裕層の世界を垣間見れるのも面白い。

結論である教育問題についても、納得できる。皮肉なことに、この人のきらびやかな経歴自体が「正解への呪縛」に弱い日本人に突き刺さっている気がするのだ。この本を読んだ若者ほど、ハーバードでMBAを取ることを夢見るのではないだろうか?・・・