§68-1 生きんとする意志の否定

「個体化の原理」を突き破った人にとっては、他人と自己の区別が無いので、他人の苦痛を自分の苦悩として感じる。最高の慈悲深さを持つばかりに、自分を犠牲にして、自分自身の命を犠牲にしてさえ他人を救おうとする。こうして、彼は全世界の苦痛を我が物にするだろう。

彼にとっては、意志の衝動から生まれる欲望でさえも、世界の苦痛の認識にかき消されてしまう。いわば、認識がいっさいの意欲の鎮静剤となる。これが、生きんとする意志の否定の状態であり、自発的な断念、捨離、沈着、無意志の状態である。

»目次に戻る(意志と表象としての世界)

Bookmark the permalink.