ショーペンハウアーの哲学

§36-1 芸術と天才

歴史、自然学、数学といった科学の扱う主題はどこまでも現象であり、現象の諸関係にすぎない。(「根拠の原理」)そのため、科学はイデアの認識の助けにはならなかった

イデアの認識の方法とは、科学ではなく芸術である。

芸術は、その対象を世の中の他のものから切り離して鑑賞する。この純粋な観照を通じて、永遠のイデア、世界のいっさいの現象の中の本質的なものを把握出来る。そして芸術のただ一つの目標は、この認識の伝達ということに外ならない。

科学は目標に達するたびごとにくりかえし先へ進むよう指示され、ついに究極の目標(「この世界はなんであるのか」)には達しないし完全な満足を得ることもできない。これに反し、芸術は、随所で目標に達している

しかし、純粋な観照が可能となるためには、ありあまる認識能力が必要である。これはすなわち自己の関心、自己の意欲、自己の目的をすっかり無視して、つまり自己の一身をしばしの間まったく放棄し、それによって純粋に認識する主観、明晰な世界の眼となって残る能力のことである。自由になったこのもて余すほどの認識力が、そのとき意志を離れた主観となり、世界の本質をうつす明澄な鏡となる。

それではありあまる認識能力を持つ人とはどのような人であろうか?それは天才であり、以下に集約される。

本章では天才の特徴を分析する。