ショーペンハウアーの哲学

§59 悲観と楽観

世界は偶然と誤謬に支配されている。

思考の国は不条理に支配されている。

芸術の国は凡庸さに支配されている。卓越したものは同世代の恨みを免れたずっと後で再発掘され、まるで地球外から来た隕石のように珍重される。

一生は苦難や災難に支配されている。自殺する人もいるくらいである。短さが生の最も善いところではないだろうか。

ダンテの神曲の地獄篇は、どの世界から材料をとってきたのだろうか?この世界である。どんな楽天家でも、外科手術室、監獄、拷問室、奴隷小屋、戦場、処刑場と連れ回せば、世の中について悟るだろう。ダンテの楽園には祖先や恋人や聖者ばかりで、純粋な歓喜が描かれていないのは材料が無かったためである。

人間はこうした苦悩に際して、自分に立ち帰るしかない。楽天主義は何も考えていない連中の、不条理な、放埓な考えである。