ショーペンハウアーの哲学

§37 芸術作品によるイデアの伝達

天才とは、純粋な認識主観になりきる能力をもつ人であるが、凡人にも、同様の能力がいくらかはある。ただ、天才は長時間純粋な認識主観になりきれるので、認識したイデアを芸術作品という形で再現出来るのに対し、凡人はつかの間の間鑑賞が出来るだけである。

ともあれ、天才は、作品の形で他人にイデアの認識を伝達出来る。

イデアは唯一なので、純粋な認識主観として認識しようが、芸術作品を見て認識しようが、同一のイデアであり、優劣は無い。このように考えると、芸術作品はイデアの認識を容易にする一つの手段ということになる。

芸術家は、純粋な認識主観である間、イデアのみを認識して、個別の物が認識出来なくなってしまうので、作品の上にもイデアのみが再現され、いわばよけいな物が削ぎ落とされた形になっている。忘我の際にも、芸術における技術面が、この伝達を可能にしてくれている。