ショーペンハウアーの哲学

§51-3 悲劇

詩芸術の最高峰は、悲劇である。

悲劇は意志の自己自身に対する抗争と、故意と思わざるを得ないような意地悪な偶然と間違いから成っている。

悲劇の中では、極めて高貴な人々が、長期にわたる闘いと苦難の挙句、それまでの目的も人生のありとあらゆる享楽をも永久に放棄してしまう。ファウストのグレートヒェンも、ハムレットのホレーショもである。こうして彼等は原罪を償う。

悲劇には3タイプある。一つは極端な悪人が不幸を巻き起こすもの。次に盲目的な運命がもたらす、オイディプス王のような不幸。最後に、人間関係の引き起こす不幸で、立場上ずるずると、最悪の状況にはまって行くものである。

人間関係が巻き起こす不幸は、誰にも起こり得るし、逃れようもない、最大の不幸である。そして上演も最も難しい。この最高傑作は、ゲーテの「クラヴィーゴ」である。

注:この章に影響を受け、ニーチェという哲学者が誕生した。→悲劇の誕生