ショーペンハウアーの哲学

§60 エロス

ここからは、意志の肯定について論じる。

人間が自己保存に成功して、次に行う努力は種族の繁栄である。性欲を満たすことは最も積極的な意志の肯定である。

ヘシオドスやパルミデネスは、「エロスこそは万物の根本」であると言った。性欲には意志が最も強力に働くからである。

死は既に生が始まるときに決まっているから、意志を損なうものではない。意志は個体ではなく種族を保存する。意志は種族として、イデアとして、無規定の時間の中に現象する。

キリスト教には、根拠の原理から解放された箇所がある。それは原罪であり、アダムが性欲を満足させたことである。これは、生殖という種族の絆により、個体に分散してしまった人間が統一を回復するというイデアを教義にしたと言える。

各個体は意志の肯定としてアダムと同一であり、意志の否定としてキリストと同一である。これが救世主による救済という教義である。