泣くことは人間を動物から区別している。人が泣くのは想像力がそうさせるからである。
苦痛だけでは人は泣かない。自分を客観的に認識し、どうしてこんな目に合わなければならないのかと思い、その状態への同情を通して、二重に苦痛を知覚した時彼は泣き出し、その痙攣が自分自身に安らぎを与える。
だから、同情心の無い、冷酷な人間や、想像力に欠けた人間は滅多に泣かないものである。
人が死んだ時にも、自分の死の運命を想起して自分自身に同情して泣くのである。だから、生きて行くのが苦痛でしか無いほどの重病人である父親が死によって解放されたとしても、人は泣く。大切な人が死んだからという理由で泣くのは、自分の利益が損なわれたと言って泣くことで、利己心である。