ビジネス界におけるシステム理論

まず、ゲーム理論全盛の時代に、ハーバート・サイモンが「システムの科学」を書いた。

その後90年代に、ピーター・センゲが「フィフス・ディシプリン」を書いた。

そしてニューヨーク市のジュリアーノ市長が「割れ窓理論」を発表したことで、この理論は一躍有名となった。

割れ窓理論

エリヤフ・ゴールドラットが「制約条件の理論」を発表した。これは、局所最適化を避け、全体構造を把握し、ボトルネックを改善するというフレームワークだった。

日本でも、広枝氏らにより、新書でもシステム理論普及が進んだ。

§2-結論 システム理論の目的

システム理論の目的は、以下の3つである。

  • 還元主義とは別のアプローチで、世界の統一的な理解を実現すること
  • 一般科学者の育成
  • ユートピアの実現

これらについて、1つずつ検討していく。

世界の統一的理解

結局、還元主義は、異なるレベルの理論を、より低いレベルに還元することは出来なかった。生物レベルのものを物理学で完全に説明することは出来ず、行動レベルのものを生物学で完全に説明することは出来ず、社会レベルのものを行動学で完全に説明することは出来ない。

しかし、ここのレベル内での法則と、レベル間に共通する法則を見つけることは出来る。

世界の統一的理解のためには、全てのレベルのものを物理学に還元するという、不可能で、おそらく無駄である、行き過ぎた望みを捨てる必要がある。代わりに、異なるレベル間のシステム同型性を基礎におくべきである。

一般科学者の育成

還元主義は行き過ぎた専門分化をもたらす。それが、お互いに無関心な専門馬鹿を生んできた。

一般システム理論が、各分野を超えた基本原理を発展させることが、一般科学者育成のための教育的基礎となる。

ユートピアの実現

一般システム理論は制御工学の理論を端緒としているので、一般システム理論をマスターした学者が、社会を制御することで、人類の幸福が実現できると考えるものもいる。しかし、著者はこれに反対である。

この考えは、哲人為政者というプラトンの理想政治にルーツをもつものである。だが、こうした考えで実現される未来は、よくてせいぜいオルダス・ハクスリーの「素晴らしい新世界」、悪くてジョージ・オーウェルの「1984年」のようなものだろう。

現代の全体主義は、大衆暗示、人間の獣性の解放、条件付け、思考制御など科学的な武器を駆使してきた。

システム理論は、人間と人間行動と社会のシステム同型性・オーガニゼーションとしての独自性の理解を可能にする。人間の個人として内発的に湧き出る価値が尊重されるべきであり、そのような個人の達成がシステムの要素にならなくてはならない。

§2-2 既存の学問の限界

システムの、以下のような特性は、既存の学問では扱うことが出来ない。しかし学問を広く見渡せば、それを補完する視点が得られる。

  • 還元不可能性
  • 分割不可能性
  • 開放システム
  • レベル間移動
  • 目的論

還元不可能性

物理学は、部分や過程を切り出し、それを「盲目的な」自然法則の組み合わせで説明してきた。そのために、むしろ適用範囲を狭めてきた。

しかし、生物学では、生物を部分や過程から理解することが可能だとは考えていない。生物の部分や法則への還元は不可能である。生物は、過程を統一するオーガニゼーションであり、動的な法則に支配されている。

分割不可能性

システムは部分の総和以上のものである。例えば、システムから一部を取り出すと、それが全体の相互作用の中にあったものとは違ってしまう。システムは分割すればシステムでは無くなってしまう。分割して一部を研究することは不可能である。

開放システム

生物は常に環境との間で物質を交換し合うシステムである。物理学はこの開放システムを無視してきた。

レベル間移動

生物学的なシステムと、人間社会などの「超有機体」には、階層が違うにもかかわらず、システム同型性がある。つまり、異なるレベルの上で、同じ法則が成り立つ。このように、あるレベルからあるレベルに移しても成り立つ法則を、既存の学問は扱ってこなかった。

目的論

物理学は、目的論を避けてきた。

§2-1 システム同型性

第2章のトピック

  • 専門分化への批判
  • システムの同型性
  • システムの定義

専門分化への批判

どの学問分野も、必然的に、データ・技法・理論が肥大することで、専門化が進行していく。その結果、あらゆる学者が狭い殻の中に閉じこもって、他の分野に無関心になっている。これでは、システム同型性に気づくことは出来ない。

システム同型性

同じような問題と考えが、なぜか、広く様々なレベルの分野に出現している。

例えば、ロトカ・ヴォルテラの生物統計学は、化学の反応速度論とほとんど同じ構造である。しかし、それらが扱う相互作用の実体と力は、異なったレベルのものである。

また、開放システムの理論(指数法則の理論)は、動物の生長現象にも個体群の理論にも経済学の理論にも登場するし、サイバネティクスや情報理論の理論も同様に多くの分野に登場する。

このように、広く様々なレベルの分野の問題を、ひとつの理論で説明できる。この理論を、一般システム特性の理論と呼ぶ。逆に、それぞれの系は、システム同型性を持つと呼ぶ。システム同型な系は、同じ数学的法則で説明できる。

また、数学的法則が存在しない、非定量的な問題にも、同型性が考えられる。生物と、人間社会は「超有機体」として同型である。

このことを知れば、科学のいろいろな分野で行われてきた再発見の悲劇を防げるはずだ。

システムの定義

こうした「システム」は、「相互作用しあう要素の複合体である」と定義できる。

§1-3 システム理論の方法論

システム理論は、モデル化と数学の組み合わせであり、以下の方法論が試みられてきた。

  • 数学(解析学・微分方程式・力学系)
  • コンピュータシミュレーション
  • コンパートメント理論
  • 集合論
  • グラフ理論
  • サイバネティクス
  • 情報理論
  • オートマトン理論
  • ゲーム理論
  • 決定理論
  • 待ち行列理論

§1-2 システム理論への批判

システム理論への批判

  1. システム理論は、数学がどんな分野にも応用できるという、自明の理以上のものではない。
  2. システム理論の表面的な類似を捉えた比喩は、実際の相違を覆い隠し、偽りに導く。
  3. システム理論は、「還元不能性」を掲げて分析的なアプローチを批判するが、分析的なアプローチが役立つことは生物・化学・物理で実証済みである。

ベルタランフィによる反論

システム理論とはパラダイムシフトであり、既存の科学の否定が目的ではない。

システム理論の主張は、

既存の科学の盲点に着目し、そこに解釈と理論を提供しよう。
また、特殊科学よりも高い一般性を持つ解釈と理論を提供しよう。

ということである。よって1.も3.も的外れな批判である。

(私には、ベルタランフィは、2.への明確な反論は出来ていないように思える。)

§1-1 システム理論の広がり

序論のトピック

  1. システム理論の広がり
  2. システム理論の歴史
    • システム理論への批判(記事)
  3. システム理論の方法論のリスト(記事)

まず今回は、システム理論の広がりの章について見ていきます。

システム理論の広がりについて

  • 動力工学から制御工学へ
  • コンピューターの出現
  • 既存の学問の限界

動力工学 vs 制御工学

動力工学とは、蒸気機関や電気機械といった、「大量のエネルギーの解放」を扱うための工学である。

制御工学とは、小さな装置によって過程を支配するための工学である。

蒸気機関や自動車といった単純なシステムを作るためには、動力工学のみで十分だった。しかし、より複雑なシステムを作るためには、制御工学が必要だ。

例えば、弾道ミサイルや宇宙船を作るために、人類は機械との関係性の問題や、財政的・経済的・社会的・政治的問題に直面してきた。

コンピューターへの期待

「システム・アプローチ」とは、目的を定め、その実現のために最高の効率と最小のコストで済む解決法を発見するアプローチである。

このような計算は人間には不可能であり、コンピューターの登場によって可能になった。

(このようなコンピューターへの過度な期待は、バックミンスター・フラーの著書にも見られます。)

既存の学問の限界

物理学は三体問題以上の複雑な問題に対しては無力である。しかし、現実の物体はどのように動けばよいかを知っているのだから、異なるアプローチを取れば真実が明らかになるはずである。

  • 物理学
  • 心理学のS-Rモデル
  • 精神医学
  • 社会科学
  • 歴史学

においても同様の限界とシステム理論の発展が起こっている。