技術価値評価理論

この本について

企業は企業価値を上げようと行動する。

ゆえにR&Dを行うべきか否かを判定するには、R&Dの価値を定量化し、手元のキャッシュと比較し、企業価値をあげる方を選ぶべき。

R&Dは成長率を押し上げ、フリーキャッシュフローを押し下げるので、企業価値を上げる要素と下げる要素両方を持っているので評価が難しいのだ。

各章の結論

1

R&Dの価値を定量化することは可能である。

企業の価値は、事業・財務構造(キャッシュかその他)・マネジメント・事業機会に大別される。

R&Dとは、キャッシュを事業機会に変える手段である。企業の価値はそれぞれの価値の総和である。例えば事業価値は、フリーキャッシュフローを何倍かして債務を引き事業と関係ない資産を足し合わせれば計算できる。同様に企業の価値の一部として、R&Dの価値を定量化することは可能である。

しかし定量化だけだと、美の定量化と同様、人によって結論は異なってしまう。故にR&Dマネージャーは、財務言語を使って経営者やbizと話せる必要がある。科学者と経営者の人生の目標の違いを理解し、それに基づいて話せる必要がある。

「ビジネスパーソンの大きな動機付け要因の3つめは、自分の印のついた偉大な組織を作ることで伝説を作ろうというものだ。企業のもろさを考えればこの夢は非現実的である場合が多いことをジェフリー・ソナンフェルドが指摘したが、記念碑を建てたいという欲望は強力である。この欲求は、自分の業績に満足していないCEOの場合に最も強いように思われる。
伝説を残したいという気持ちが、時には非合理的な行動をとらせてしまう。何人ものエグゼクティブが、退職まで残り数年という時になって、長期的なプロジェクトで大博打をした。」

F.Peter Boer

R&Dはブラックボックスではなく、取らなければならないリスクであり、管理されなければいけないリスクである。

ブラックボックスを理解するために、R&Dの仕組みの理解が必要である。科学が技術に変化する。しかしながら、技術が科学だけから創造されるわけではない。例えば、トーマス・エジソンは科学者でも技術者でもない。彼の白熱電球の発明は、新しい科学とはいっさい関係していない。また、ポータブル・トランジスタラジオの発明も、新しい科学とも新しい技術とも関係しない、アセンブリから生まれたものである。

技術の理解が必要である。何より技術は陳腐化する。科学は陳腐化しない。

2

R&Dプロセスは5ステージからなる。

ステージ0: アイディアを多数見つけ選別する

財務的なアウトプット:

  • R&D予算10%の検証費用。
  • 何に取り組むべきでないかの理由のデータベース資産。

ステージ1: アイディアの穴を調べ、コンセプトを固める

先行研究を文献調査したりする。

財務的なアウトプット:

  • プロジェクト早期中止による、リスクコントロール。
  • 発見された予期しない技術的問題のデータベース資産。

ステージ2: フィジビリティスタディ

財務的なアウトプット:

  • 前ステージより増大した経費。
  • 試作品から収集した大量の測定データ資産。
  • プロジェクト早期中止による、リスクコントロール。
  • 予想収益と成功確率のデータベース。

ステージ3: 開発

経営層はプロトタイプを用いて外部と交渉する。セールスパートナーを作ったりする。

財務的なアウトプット:

  • 製品のプロトタイプ(資産)

ステージ4: 初期商業化

デザインやUXを洗練する

財務的なアウトプット:

  • 質が向上した製品
  • 製品発売に伴う財務リスク

一般論としてのデシジョン戦略

「最初不確実性が高い時には掛け金を少なくし、不確実性が減るにつれて掛け金を増やす」

「不確実性を減らす情報には投資せよ」

ロバート・クーパー 新製品開発におけるリスクマネジメント

3

4つの指標を用いて事業評価せよ。

  • 純利益
  • EBIT
  • EBITDA
  • フリーキャッシュフロー

P/L

EBITは財務構造(資金調達方法)とは独立に事業価値を評価する指標だ。

EBITDAは事業価値をEBITDA*7などで計算することがある。

B/S

バランスシートの理解方法:

左: 会社の保有する資産全て

右: 請求権を持つ人のリスト。銀行(負債)であるか、株主(純資産)であるか。

キャッシュ・フロー計算書

キャッシュフローは

  • 営業活動によるキャッシュフロー
  • 投資活動によるキャッシュフロー
  • 財務活動によるキャッシュフロー

フリーキャッシュフローとは営業キャッシュフローから資本的支出を差し引いたものである。これは営業活動と投資活動に関係し、財務活動とは無関係である。

R&Dの資産化

会計処理として許されてはいないものの、R&Dは資産化できると良い。

なぜなら、R&Dで作った技術は減価するために、継続してR&D投資をしなければならない理由が帳簿に明確に現れるからである。

4

投資判断がGOになるパターンがいくつかある

  • 損益分岐点を超える場合
  • 規模の経済により生産あたりコストが低下する場合
  • 生産能力を需要にマッチングさせコスト優位になる場合
  • 余剰生産能力によりスピーディーに利益創出できる場合
    ただし長期的に良い事業でない場合あり

いずれも投下資本利益率の向上が目的である。

5

R&DPJを資産と考える場合に、資産価値を計算することができる。

6

R&Dは高い利益率を持つ場合にのみ意味がある。

なぜなら、低い利益率(資本コスト以下)では成長による企業価値の増分が0になり、R&Dのもたらす成長率が企業価値の上昇に寄与しないからである。

R&Dはフリーキャッシュフローを低下させるため、R&Dするかどうかは成長率と利益率のトレードオフで判断すべきである。

R&Dの成長率への貢献ルートは、価格や市場成長やコストカット以外に限られる。

  • 市場浸透
  • 市場シェア
  • 製造コスト低下

7

マーケティングの章。

Sカーブ理論(Fisher-Pry)によりR&D技術の減価を説明する。

8

この本の心臓部。

R&DPJのNet Present Valueは、以下の情報から計算できる。

  • ターミナル成長率
  • 資本コスト=M
  • ターミナルフリーキャッシュフロー

NPV = - Initial_0 + \displaystyle \sum_{i=1}^{T} \frac{FCF_i}{(1+M)^i} + TerminalValue

例えばそれぞれを仮置きすると、NPVが次のように求まる

  • 初期投資2500万円
  • ターミナル成長率=5%, 資本コスト=12%のときターミナル係数=15
  • ターミナルフリーキャッシュフロー=500万のとき
  • ターミナルバリュー=15*500=7500万円である。

NPV = - 25000000 + \displaystyle \sum_{i=1}^{T} \frac{FCF_i}{(1+M)^i} +75000000 = 50000000 + \alpha

つまり1年目の初期投資7500万円か、段階的に投資するならそれ以上のキャッシュをつぎ込んでも企業価値が上がる。しかしながら10年目ぐらいまでは負のフリーキャッシュフローなので、初期投資7500万円はそれ以上の資金がないと事実上不可能である。