非線形波動の時間変数の無限次元化

はじめに

数ある数学理論の中でも、最も面白いのはソリトン理論で、ひも理論(素粒子)にも応用があったりします。

Hadoopを触りすぎてふと数学をやりたくなったので、振り返ってみました。

要約

シュレーディンガー演算子のルートを無限に奇数乗するとKdV階層になる。各層には異なった無限個の時間変数が対応。

KdV方程式

\displaystyle\frac{\partial u}{\partial t} + 6 u \displaystyle\frac{\partial u}{\partial x} + \displaystyle\frac{\partial^3 u}{\partial x^3} = 0

通常の波動方程式とは異なりudu/dxの項があるために、この方程式の解の線形和は解にはなりません。重ね合わせの法則は成り立ちません。

この方程式の解は次のような美しい形です。

soliton

これを得るにはRStudioで以下の式を実行してください。

この「logに入れて2階微分」されている関数をτ関数(タウ関数)と言います。

重ね合わせの法則が成り立たないのに、次のような凄いことが起こります。youtubeを見てください。(ほかの動画リスト)

このような現象を「波が粒子化された」といいます。孤立solitude+粒子を含む-onで孤立波solitonになります。数学の理論だけではなく、実際の水を使って実現できるのが凄いところです。波の粒子化は次の2つの方法がメジャーです。

  • ヒルベルト空間で正規分布をフーリエ変換(要はsinとcosをいい感じに足し合わせる・線形波動)
  • KdV方程式の解(ソリトン・非線形波動)

しかしこの2つの粒子化の仕組みは全く違います。波同士の相互作用、すなわち衝突がソリトンの特徴です。

シュレーディンガー方程式

線形波動はシュレーディンガー方程式の解です。

\displaystyle i\hbar\frac{\partial\psi}{\partial t} = - \dfrac{\hslash^2}{2m} \, \dfrac{\partial^2 \psi}{\partial x^2} + v \psi

定数を省略し、記号を再定義してこれを単純化すると

\partial_t \psi = ( {\partial_x}^2 + v ) \psi

です。右辺をシュレーディンガー演算子と言います。

微分演算子のルート

KdV方程式は実はシュレーディンガー演算子のルートの3乗から作ることができるのです。

ルートは2乗したら元に戻るもののことです。微分や関数をかけることはローラン級数上で代数をつくるので、それらの多項式の演算子に対してのルートも考えられます(擬微分作用素といいます)。例えば微分は級数の各項にkをかけることなので、その逆は級数の各項をkでわること、すなわち積分になります。

ただし、この”積分”で微分の積公式に対応するのは負の二項係数を用いた次の公式です。-nをnに戻しても矛盾なく成り立ちます。

\partial^{-n} \circ f = \displaystyle\sum_{j \geq 0}^{\infty} {}_{-n}\mathrm{C}_j (\partial^j f) \circ \partial^{-n-j}

もしシュレーディンガー演算子にルートが存在するとすると

( \sqrt{{\partial_x}^2 + v} )^2 = ( \partial + \displaystyle\sum_{i=1}^\infty f_i \partial^{-i} )^2

なのでこれを解きます。0階微分の係数が0なのは計算するとすぐにわかります。左辺の1階微分の係数が0なのに、右辺に1解微分の項が表れてしまうからです。

( \partial + \displaystyle\sum_{i=1}^\infty f_i \partial^{-i} )^2 = \partial^2 + \partial \circ \displaystyle\sum_{i=1}^\infty f_i \partial^{-i} + \displaystyle\sum_{i=1}^\infty f_i \partial^{1-i} + ( \displaystyle\sum_{i=1}^\infty f_i \partial^{-i} )^2

最後の項は公式を使って展開します。

( \displaystyle\sum_{i=1}^\infty f_i \partial^{-i} )^2 \\ = \displaystyle\sum_{m,n \geq 1} f_m \circ \partial^{-m} \circ f_n \circ  \partial^{-n} \\ = \displaystyle\sum_{m,n \geq 1} f_m \circ (\partial^{-m} \circ f_n) \circ \partial^{-n} \\ = \displaystyle\sum_{m,n \geq 1} f_m \circ (\displaystyle\sum_{j \geq 0} {}_{-m}\mathrm{C}_j (\partial^j f_n) \circ \partial^{-m-j}) \circ \partial^{-n} \\ = \displaystyle\sum_{m,n \geq 1,j \geq 0} {}_{-m}\mathrm{C}_j f_m ( \partial^j f_n ) \circ \partial^{-m-n-j}

ここでk=m+n+jなる変数を導入します。kと(m,n,j)は以下のように対応します。

k 組み合わせ数 (m,n,j) 演算子
2 {}_1 \mathrm{H}_2 = {}_2 \mathrm{C}_2 \\ = 1 (1,1,0) - f_1^2 \partial^{-2}
3 {}_2 \mathrm{H}_2 = {}_3 \mathrm{C}_2 \\ = 3 (2,1,0)
(1,2,0)
(1,1,1)
(2 f_1 f_2 - f_1 (\partial f_1))\partial^{-3}
4 {}_3 \mathrm{H}_2 = {}_4 \mathrm{C}_2 \\ = 6 (3,1,0)
(2,2,0)
(1,3,0)
(2,1,1)
(1,2,1)
(1,1,2)
(2 f_1 f_3 + f_2^2 \\ - 2 f_2 (\partial f_1) - f_1 (\partial f_2) + f_1 (\partial^2 f_1)) \\ \partial^{-4}

この表を最初の式の左辺に代入して両辺を比較して、

f_1 = \displaystyle\frac{1}{2} v \\ f_2 = - \displaystyle\frac{1}{4} \partial v \\ f_3 = \displaystyle\frac{1}{8} \partial^2 v - \displaystyle\frac{1}{8} v^2 \\ f_4 = - \displaystyle\frac{1}{16} \partial^2 v + \displaystyle\frac{1}{4} v \partial v + \displaystyle\frac{1}{16} v^2 \\ \vdots

となります。シュレーディンガー演算子のルートは

\sqrt{{\partial_x}^2 + v} \\ = \partial + \displaystyle\frac{1}{2} v \partial^{-1} - \displaystyle\frac{1}{4} \partial v \partial^{-2} + \displaystyle\frac{1}{8} ( \partial^2 v - v^2 ) \partial^{-3} \\ - \displaystyle\frac{1}{16} ( \partial^2 v - 4 v \partial v - v^2 ) \partial^{-4} + \hdots

となります。

無限次元時間変数

シュレーディンガー方程式にはハイゼンベルク表示という表示形式があります。[A, H]=AH-HAは交換子積と呼ばれます。

\displaystyle\frac{\partial A}{\partial t} + \frac{i}{\hbar}[ A, H ] = 0

Hはハミルトニアンで、シュレーディンガー演算子の定数倍です。さて同様に、シュレーディンガー演算子の2分の奇数乗について、似たような方程式(Lax表示)を作ってみましょう。

P = \partial^2 + v \\\displaystyle\frac{\partial P}{\partial t_1} + [ P, P^\frac{1}{2}_{+} ] = 0 \\\displaystyle\frac{\partial P}{\partial t_3} + [ P, P^\frac{3}{2}_{+} ] = 0 \\\displaystyle\frac{\partial P}{\partial t_5} + [ P, P^\frac{5}{2}_{+} ] = 0 \\\displaystyle\frac{\partial P}{\partial t_7} + [ P, P^\frac{7}{2}_{+} ] = 0 \\ \vdots

これら無限に続く偏微分方程式の組をKdV階層といいます。実は3/2乗に対応する方程式は、KdV方程式と等価なのです。(ただし、v=uととる)

もう一つ注意すべきは、時間変数に添え字がついていることです。仮に上の式のt_1やt_3が同じtで書かれていたら、もちろん両立は無理です。無限個の異なる時間変数に対して、KdV階層のすべての式が両立するのです。実は、一つの無限次元関数

\tau (t_1, t_3, t_5, t_7, \hdots)

がKdV階層すべての解になっています(ただし、t_1=x, t_3=t)。これは最初に出てきたタウ関数です。これがあれば、KdV方程式の解は

u = 2 \displaystyle\frac{\partial^2}{\partial x^2} \log \tau

として求まります。

次回予告

KdV方程式の解uの背後に、KdV階層の解τがありました。何のために、苦労してuをτに変換したのでしょうか?

実は、τ関数は、「フェルミオンの二次式全体というリー環から生成した群を、<真空ベクトル>に作用させた軌道」なのです。フェルミオンは電子やニュートリノやクォークや陽子、中性子などの素粒子です。

次回はそこが語れるといいのですが・・・。理解が追いつきません。

参考図書は次の本でした。

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「非線形波動の時間変数の無限次元化」への1件のフィードバック

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