Appleの初期のCMにも使われた「1984年」。
※ネタバレあり
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Table of Contents
前半
- 1章。家で「二分間憎悪」について日記を書く(死刑犯罪)。音声入力以外、例えばペンの利用はテレスクリーンから盗聴不可能なので死刑なのだ。
- 2章。隣人の家で、そこの子供たちに襲われた。(カンボジア共産主義のクメール・ルージュに似てる)
- 3章。戦争前の回想。起床とラジオ体操。
- 4章。主人公の、真理省での仕事内容(新聞の改ざん)。
- 5章。同僚と食堂でメシ。同僚のサイムは、のちに「消滅」させられる。
- 6章。買春(軽犯罪)の回想。
- 7章。改竄され過ぎて霧の中となった歴史と、主人公だけが知る改竄の絶対的証拠。
- 8章。プロール街にて古道具屋の発見。
考察
第一部の主題は、「街」である。1984年の世界がどうなっているかを色々な角度から描写してくれる。
第一部の終点は、「街」のなかに「隠れ家」がある事実である。これは、主人公の「仕事」のなかに、「切り札」があること、「生活」のなかに「日記」があることに対応する。
つまり、この暗黒の世界の中の突破口を描写することが第一部の目的だ。
後半
ヒロインであるジュリアの登場により物語は動き出します。しかし、このヒロイン、良く考察してみると奥が深いのです。超絶ネタバレ
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- ジュリアとの接触。ジュリアからの愛の告白。テレスクリーンに隠れたデートの約束。
- ジュリアとの初デート。
- 行方不明の妻(“良性思考者”)との生活の回想。
- プロール街の隠れ家。プロール街の肉食ネズミへの怯え。
- 同僚サイムの消滅。ジュリアの「犯罪中止」の無意識の実演。
- オブライエンからの、「ブラザーフッド」への招待。
- 夢を見る自由、党が心の内奥まではコントロールできないことの「証明」。
- 「ブラザーフッド」への誓い。
- 敵国がユーラシアからイースタシアへ変化。「黒い本」の獲得。隠れ家での読書。
- 「寡頭制集産主義の理論と実践」-
- 逮捕、投獄
考察
この章は吉本隆明の「共同幻想論」を思い出させる。曰く、国家という共同幻想を打ち壊せるのは、男女の間の対幻想だけであると。またセックスという思考を伴わない肉体的本能であるとほのめかされる。
しかし、ジュリアは革命後に生まれたという点でウィンストンと決定的に異なる。ウィンストンが出来ない「犯罪中止」(物事を長時間深く考えることがどうしてもできないこと)を、ジュリアは無意識に行うすべを身に着けているのだ。ジュリアは「思考犯罪」を行えない。ただ、セックスの本能があるだけである。それをウィンストンは愛ゆえに、自分と同じ「思考犯罪者」であると誤解してしまうのが、この章のポイントだと思う。
ウィンストンは革命前の夢を見ることを根拠に党が心の中をいじくれないと、またジュリアは可能な範囲の自由(セックス)を楽しむことで党が心の中をいじくれないと高をくくっています。しかし彼らは、心の中まで干渉することができるのです。二人の思考はこの時点で実はすれ違っています。心の中はいじられないという確信から、ブラザーフッドに参加する決意を2人でしてしまったのです。いわば、2人だからこそ勇気が湧いてしまったのです。これこそが対幻想だと言えるでしょう。幻想なのは、実はお互いに相手の考えを誤解しているからです。
そしてラスボス、オブライエンの存在感。本の中で合成ジンではなくワインが出てくるのはここだけであり、異常な色彩を放っています。誓いの儀式としてワインを飲む8章のこのシーンはどうしても忘れられないものです。
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