ショーペンハウアーの哲学

§49 イデアと概念の差異

イデアと概念は共に数多性を持たないが、3つの点で異なるものだ。

まず概念は誰にでも伝わるが、イデアは天才にしか見えない。もしくは、芸術として伝わりやすく加工されたイデアしか伝わらない。その伝わり方だって、受け手の精神的な感受性に比例する。だから俗物は権威を傘に傑作を褒めそやしながら、内心あんな作品は駄作だと有罪判決を下したくてウズウズしていて、それでいて彼らには何も伝わっていないのだ。

次に、イデアは事前の単一性であり数多の表象を産むが、概念は事後の単一性として表象から産まれる。

最後に、イデアは有機体に似ていて、人間の中で新しい表象を産み展開していく。概念からは、新しい表象は得られない。だから、概念は実用的だが、芸術にとっては不毛である。

天才自身がイデアを消化する有機体である。これに反し、模倣者は概念として他人の作品を取り込む。概念は流行としてやって来る。流行を模倣すれば同時代の人の喝采を得られるが、後世の人の喝采を得られない。新しい精神を得ようとすれば、同時代の人の喝采を犠牲にしなければならない。