金属中の電子とブロッホの定理

波動関数としての金属

シュレーディンガー方程式を使わないと – すなわち電子を波動関数ではなく単なる粒子だと思うと、なぜ金属に電流が流れる理由を説明できないのだろうか?

私はある意味でコンピューターの基礎をなすこの話題について、少し詳しく説明したいと思ってこの本を書き始めたのだ。

まず電子はマイナスの電荷、原子核はプラスの電荷を持つ物質である。1897年にトムソンは電子の存在を実験的に証明し、電子が原子核の周りを回っているらしいということを発表した。

2種類の粒子はクーロン力で引き合い、基本的に離れる理由はない。こう考えるとそもそも電子が原子核に墜落しない理由が説明できなそうであるが、シュレーディンガー方程式の発明以前は、月が地球に墜落しない理由と同じだと考えられてきた。なので、一応それが正しいことにして、自由電子は原子核を離れることが可能だとしてみよう。

では、なぜ金属だけ自由電子を持つのだろうか?

1900年にドゥルーデは、なぜ自由電子があるのかはわからないが、粒子が空中に浮いている以上、理想気体であるに違いないと考えた。彼は重い原子核はほとんど動かないはずだと仮定し、それに電子粒子がビリヤードの球のように衝突し続けていると考えた。この衝突の時間間隔の平均をτとおくと、ドゥルーデ理論では、金属抵抗の大きさを次のように計算できた。

R=

(電子の重さ)×(導線の長さ)

/(導線の断面積)×(1m^3あたりの荷電子の個数)×(電子の電荷の大きさの2乗)×τ

問3-1:τが大きい物質と、小さい物質では、どちらが抵抗Rが大きいでしょうか?

答:τが小さい=頻繁に衝突する=抵抗が大きい

この理論は実験ととても良く合致する。皆さんの手元に導線があり、電池とテスターで抵抗値を測れれば、上の値に長さや断面積を代入したものに一致するはずである。逆に抵抗値と導線の長さと断面積がわかれば、τを計算することができる。

現在の絶対零度下の実験では、1cmもの間、金属中の電子が原子核に衝突しない状態が実現できることが分かっている。これは直感的にもおかしい – なぜ気が遠くなるほど多数の原子核が存在する金属の中で、そんなに長い距離をビリヤードの球が一回も衝突せずに移動可能なのか?そしてこれはドゥルーデ理論から計算される値の1億倍である。1億回も偶然原子核を避けながらビリヤードの球が直進することは可能だろうか?つまり、ドゥルーデ理論は間違っているのだ。

1926年にシュレーディンガー方程式が発明され、電子は波である事がわかった。そして原子核も波である。電子と原子核の衝突は、ビリヤードの球同士が衝突するようなメカニズムではなく、波動と波動の相互作用なのである。こう考えると、波動が干渉しない時間を長くできる気がしてくる。

しかしより厳密には、フェルミ – ディラック統計を理解し、ゾンマーフェルト(パウリの師匠)の理論を理解する必要がある。(パウリを含むゾンマーフェルトの弟子は4人もノーベル物理学賞をとった。)

Q&A

理解度確認

戻る 目次 次へ→

「金属中の電子とブロッホの定理」への2件のフィードバック

  1. ピンバック: フェルミオンとボソン | The Big Computing

  2. ピンバック: なぜ金・銀・銅が特別なのか。s/p/d/f軌道 | The Big Computing

コメントは受け付けていません。