正規分布の3次モーメントの楽な計算法(確率論の裏ワザ)

※統計検定チートシートはこちら

概要

正規分布の3次モーメントの楽な計算法。

大学2年生の2学期に、「物理数学」という授業で習った方法。職場であまり知られてなかったのでメモ。

ただし厳密には微分形式の可積分性(高次元の微分同士の交換可能性と、無限遠点で積分核が0に収束すること)を仮定する必要がある。

本題

1次元正規分布を

p(x) = \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2 \pi \sigma^2}} \exp[\ \displaystyle\frac{1}{2 \sigma^2}(x-\mu)^2]

とする。1次・2次モーメントの積分は簡単で、次のようになる。

E[x] = \mu \\E[x-\mu] = 0 \\E[(x-\mu)^2] = V[x] = \sigma^2 \\E[x^2] = \mu^2 + \sigma^2

3次は次のように、2次モーメントの両辺をμで微分する。

\partial_\mu E[x^2] = \partial_\mu ( \mu^2 + \sigma^2 ) = 2 \mu \\\partial_\mu E[x^2] = \partial_\mu \displaystyle\int x^2 p(x) dx \\= \displaystyle\int x^2 \partial_\mu p(x) dx \\= \displaystyle\int x^2 \partial_\mu \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2 \pi \sigma^2}} \exp[\ \displaystyle\frac{1}{2 \sigma^2}(x-\mu)^2] dx\\= \displaystyle\int x^2 \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2 \pi \sigma^2}} \partial_\mu \exp[\ \displaystyle\frac{1}{2 \sigma^2}(x-\mu)^2] dx\\= \displaystyle\int x^2 \displaystyle\frac{1}{\sqrt{2 \pi \sigma^2}} \displaystyle\frac{(x-\mu)}{\sigma^2} \exp[\ \displaystyle\frac{1}{2 \sigma^2}(x-\mu)^2] dx\\= \displaystyle\frac{1}{\sigma^2} [ E[x^3] - \mu E[x^2] ] \\= \displaystyle\frac{1}{\sigma^2} [ E[x^3] - \mu (\mu^2 + \sigma^2) ]

ゆえに、

E[x^3] = \sigma^2 \partial_\mu E[x^2] + \mu (\mu^2 + \sigma^2) \\= \sigma^2 (2 \mu) + \mu^3 + \mu \sigma^2 \\= \mu^3 + 3 \mu \sigma^2

となり計算が完了しました!

なぜ物理?

物理だとどこで出てくるかというと、統計力学が多いです。熱力学の温度=1/βは2σ^2に一致します。そして、正規分布は、古典力学の上のカノニカル分布として登場します。エネルギーが運動量の2次式だからです。

で、熱力学だと「温度で微分」することが多いのです。よってμ微分やσ微分が多用されます。また、自然界は冒頭の数学的大前提を満たしてくれることが多いです。

おまけの裏技

平均値周りの3次モーメント(歪度)はどう計算したらいいのでしょうか?Eは線形関数なので3次式を展開すればいいのですが、実はμ=0を代入すればいいです。

E[(x-\mu)^3] = E[x^3] \vert_{\mu=0} \\= \mu^3 + 3 \mu \sigma^2 \vert_{\mu=0} \\= 0 + 0 \sigma^2 = 0

なぜこれが成り立つのか?平均値周りのモーメントは、積分範囲が無限なので、分布全体をx軸方向に平行移動しても不変です。分布の形は平行移動で不変という、ある意味当たりまえの話です。解釈次第では、

「物理量は平行移動に関して不変でなければならない」

からだと言えるかもしれません。(相対性原理:「物理量は座標変換に関してテンソル」)
だから、平均値周りのモーメントは、原点周りのモーメント(μ=0)と一致するのだと考えればいいでしょう。これは、x^3が奇関数だから0になるというだけではないのです。当然、4次、偶関数であっても

E[x^4] = \mu^4 + 6 \mu^2 \sigma^2 + 3 \sigma^4 \\E[(x-\mu)^4] = 0 + 0 \sigma^2 + 3 \sigma^4 = 3 \sigma^4

が成り立ちます。

さらなるおまけ

正規分布のn次モーメントを生成するプログラム

「正規分布の3次モーメントの楽な計算法(確率論の裏ワザ)」への5件のフィードバック

  1. ピンバック: 正規分布のn次(高次)モーメントを生成するプログラム(続・確率論の裏技) | teqニカルブログ

  2. ピンバック: 学問のWebサイトでSEOをするということ – The Big Computing

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