ブックレビュー小売DX大全


今回はこの本をレビューしようと思います。

Amazonでの評価がとんでもないことになっていますが大丈夫でしょうか…

著者の経歴を見ました。「超客員教授」とあります。

そもそもオムニチャネルとはなんだったでしょうか。

EC・店舗をはじめあらゆるチャネルを使って顧客体験を向上させることを目指すこと

みたいですね。

また本書は、議事録に基づいた本のようです。前書きに、

本書は、その日本オムニチャネル協会が1年以上かけて重ねてきた議論や集めた事例をまとめたものです。

とあります。

レビューの内容は本当か?

この本のテーマは小売DXです。

しかし、レビューには、オムニチャネルの情報がほとんどだと書かれています。

では、具体的に、小売DXのテーマとして何が語られているのでしょうか?

実際には、オムニチャネル・海外事例・技術が大きな3つのテーマで、ページ数比率は、

  1. オムニチャネル(90%)
    1. 心構え・人材論(うち10%)
  2. 海外事例(3%)
  3. 技術論(5%)
    1. ショッピングカート(うち4%)

でした。これについては、おおよそレビューの通りだと言えます。

なぜオムニチャネルの話がほとんどなのか?これにはふたつの理由があるとみています。

ひとつは、著者の専門性がオムニチャネルに偏っていること。もうひとつは、日本の小売の現状です。

そもそも、戦前に起源をもつ日本の伝統的な小売業の世界観は、最近急拡大したインド・中国の小売、シリコンバレーが身近なアメリカの小売とは大きく異なります。

実際に、EC事業をもたない小売も多いのです。

なので、この海外と比べた圧倒的なビハインドを埋めるにはまずはECサイトの構築から…という理論が受け入れられる背景がある。そう考えることもできるのかも知れません。

では、この3つのテーマについては具体的に何が書かれているのか?を見ていきましょう。

オムニチャネル

p14〜40,47〜174の153ページを割いて、オムニチャネル論が展開されます。本文は199ページなので、なんと76%。その後も合わせると、全体の90%以上はオムニチャネルについてです。

カスタマー像は古典的な、全てのチャネルを律儀に回ってくれるペルソナのジャーニーで説明されています。このことから、LTVを上げるというのがこの本のテーマなのだと分かります。

最近は小売店でもD2C商品が扱われていて、客単価を向上させています。途中2ページだけD2Cの解説がありました。内容については、D2Cはチャネルが少ないのでオムニチャネルの方が良い、という論旨に感じました。D2Cの小売店の流通はメーカー視点ではオムニチャネルと言えなくもないのかも知れません。

追記:ダイヤモンド社「流通テクノロジー2022 3月号」によると、情報システム整備によってオムニチャネルを実現したいか?に対する回答は35.7%(前年比マイナス3.7%)であった。

海外事例

さすがに6ページほどの紙幅では限界があるのか、情報に抜け漏れがあると言わざるを得ません。

なんとアメリカの例がWalmartしか書いてありません。アメリカには売上数兆円でDXしまくってる会社は数年前から多数あるので、肩透かし感は否めません。

欧州の例には無人店舗の例がありません。例えばフランスのauchenは売上3兆円を超え、無人店舗も展開しているのにまったく触れられていません。有名なZARAのRFID事例の説明が主です。

最後に中国ですがフーマーが名前だけ取り上げられています。しかし、「先進的過ぎて真似出来ないし、きっと日本の商習慣には合わない」とばっさりと切り捨てられています。中国についてはわずか1.5ページでした。

インドや韓国の記載はありません。

技術

ECサイトの作り方が中心。マイクロサービスの説明にかなり違和感があります。実際の開発は困難なものです。

このことから、小売の幹部層と技術レイヤーとの計り知れないギャップの大きさが浮き彫りになってきています。

DMP(Data Management Platform)については2行、AIについては5行のみ言及があるにはあります。

まとめ

DXの本なのに、技術についての記述はほぼ無い本です。

しかしながら、これはこれで日本のDXの現状を表しているのではないでしょうか。

それはLTV主義と現場の抵抗のなか出来ることが限られ、なんとかDXを少しでも進めるしかないという苦しい現状です。

心構えの章が長いのも、そうした現状を反映しています。

技術に詳しければ良いというわけではない、DXの難しさについて改めて考えさせられました。

リテールの本質を、考える。リテマガでした。

投稿者プロフィール

mat-hリテールテック研究家
松﨑 遥(男性)
東京大学・大学院にてカオス複雑系の研究に従事。在学中にITベンチャーに参画し、ソフトウェア開発(WorksApplications)、ビッグデータの機械学習(Recruit)、画像認識AI(PKSHA)、マネジメントに従事。

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