この本は自動販売機についての本です。もう取り扱いがないようですが、あまりに素晴らしいので皆様に是非ご一読いただきたく取り上げさせていただきます。
1962年のテクノロジー
自動販売機こそは、リテールテックの先駆けです。
なぜなら、テクノロジーにより新しい販売形態を可能にし、メーカー利益率4割という驚異的な数字を叩き出しているからです。
その理由は、消費者便益の高さ、すなわち、「喉が渇いた時/冷たいものが欲しい時/寒い時」にすぐ受益できるという点に尽きます。
1962年には、冷えたコカコーラ瓶の自動販売機が設置されました。
自動販売機の発明と普及こそは、技術がメーカーと消費者の双方を幸せにした素晴らしい歴史的事件なのです。
反面、自動販売機の運営には計り知れないほどのコストがかかり、オペレーターの皆様をはじめとする多くの人々の献身によって成り立っているものです。
年間5兆円の売り上げを叩き出す社会インフラである自動販売機について、学ぶことのできる本です。
プレイヤー
まず富士電気リテイルシステムズなどの企業を知ることができ、歴史にも触れられています。歴史は、明治・大正・昭和と、写真入りで楽しいです。
オペレーター
自動販売機を巡回し、主に商品や釣り銭を補充する業務を行う方々をオペレーターと呼びます。
自動販売機は儲かっているのだから、オペレーターの仕事はさぞ楽ではないか?と思われるかも知れません。
とんでもありません。オペレーターは大変な重労働です。
そもそも、自動販売機は日本国内に500万機もあります。そして、オペレーター一人当たり1日に30台ほども巡回する必要があります。まずこの巡回自体が大変で、特にビル補充が大変であると言われています。
そして、1カ所で30種類の飲料を10本ずつ補充するとすると・・・300本。1日に、30×300=約10000本も飲料を補充する必要があります。
これが全て350ml缶だとすると、3500000g=3500g=3t(トン)もの荷物を運ぶことになるわけです。
そのためオペレーターは若い労働力であると言われ、年収相場も350~400万円であると言われます。2018年にはオペレーターストライキも話題になりました。
我々消費者は、日々、オペレーターの皆様に感謝しなければなりません。
自動販売機というとどうしても機械に目が向いてしまいがちです。しかしその収益は、実はオペレーターをはじめとする、堅実なロジスティックスによって成り立っているのです。
商品の補充だけが論点でしょうか?答えはNOです。
例えば釣り銭がなければ販売ができず、機会損失をしてしまいます。
また、商品の残数が1であると、Hot商品であれCold商品であれ、補充直後であっても温度調整済みの商品を消費者に届けられるために、やはり機会損失をしてしまいます。
このように、ロジスティックスにもさまざまな論点があります。
治安
自動販売機は日本国内に500万機もあると述べましたが、海外でも同様でしょうか?
この本が執筆されたのは2012年と、10年前の情報ではありますが、海外では自動販売機は日本ほどには普及していません。
そもそも、日本は治安が良いばかりか、贋金の少ない国でした。
しかし、この30年、強盗は増え、贋金も増えてきました。例えば自動販売機は外国人には「野外にある金庫」であると揶揄されることがあるそうです。また、新500円玉の鋳造は、贋金対策です。
自動販売機が、増加する強盗・贋金の影響を受けずに済んだでしょうか?
そんなわけありません。むしろ、新500円玉の鋳造を要請したのは自動販売機業界なのです。そして、贋金の使用記録を警察署と協力して集めたのもまた、自動販売機業界なのです。
自動販売機は、治安が良い日本ならではのビジネスであり、また、社会の変化に直近に接していた業界でもあるのです。治安についてはp31~51と、約20%が割かれています。
環境問題
フロン問題・節電など、環境問題についても16%ほどを割いて対応してきた歴史が詳述されています。
法律
自動販売機は万人が使うものですから、さまざまな法律を守らねばなりません。
食品に関する法律でしょうか?それもあるのは確かです。例えば牛乳は、食品衛生法に従い、自動販売機で販売するには厳しい制限があります。
- 「乳類販売業」の許可を取得する
- 保健所に申請する
- ただし缶・ペットボトルは対象外
- 直ちに10℃以下に冷却する機構。加温販売は禁止。「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」。
しかし、これだけではありません。治安や環境問題などいろいろな問題が存在しますから、当然守らねばならない法律もその分まで増えます。
- 道路交通法
- 消防法
- 製造物責任法
- 容器包装リサイクル法
- 廃掃法
- フロン回収破壊法
- ステッカー
- グリーン購入法
技術
機械的機構、特に贋金判定を行う部分や、加温冷却保温部などについての解説が多いです。
出版年が10年前の2012年なので、電子マネーが普及し始めたての時代ですから、釣り銭部・釣り銭補充オペレーションについての解説も厚いです。
オムロンの顔認識自販機が触れられていないので、出る前だったと考えられます。こちらも必見です。→オムロン
プレスリリースを確認したら、やはり2013年でしたね。この本が出版された翌年から自動販売機業界は激動の波に呑まれることになります。
取り付けるだけで人の状態を認識できる画像センシングコンポを発売 ~ 顔、手、人体など10種類のセンシングが可能 ~
2013.09.17 13:00
オムロン株式会社(本社:京都市下京区、代表取締役社長:山田 義仁)は、顔認証、表情推定、年齢推定、視線推定、手検出等、人の状態を認識する画像センシング技術「OKAO Vision」の10種類のアルゴリズムとカメラモジュールをコンパクトに一体化した機器組込み型の画像センシングコンポ「HVC(Human Vision Components)」を開発しました。
@press
リテールの本質を、考える。リテマガでした。
投稿者プロフィール
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松﨑 遥(男性)
東京大学・大学院にてカオス複雑系の研究に従事。在学中にITベンチャーに参画し、ソフトウェア開発(WorksApplications)、ビッグデータの機械学習(Recruit)、画像認識AI(PKSHA)、マネジメントに従事。
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