要約
人が家の建て直し中に仮住まいを用意するように、私も哲学の基礎を確立するまでの間、自らの行動を決定するための道徳律を作った。
この格率の第一は、わが国の法律と習慣に従うことである。
遠い外国ではなく、自分が生活をともにしなければならないひとたちのなかで最も良識ある人々によって広く承認されている、最も穏健な意見に従って身を修めるのだ。
当時自分の意見は全て検討中で無視すべきものだったので、私は彼らの意見に従う事にした。
彼らの意見を真に知るためには、言葉よりも行動に注意すべきだ。多くのひとは自分自身の信条を言葉に出来ず、表明しないからだ。あることを信じる思惟の作用は、それを信じていることを認識する作用とは独立である。
さらに私は、同じような幾多の意見のなかでも、いちばん穏健なものだけを選んだ。穏健なものが最善で、極端なものは全て悪いという理由と、穏健な意見に従えば、間違った場合でも、真の道からそれることが少なくてすむからである。
私は少しでも自由を狭めるような約束はすべて極端の部類へ入れた。
この世にはいつまでも同一の状態に留まるものはひとつもなく、是認したことの善悪が反転したのに、単に約束のために善だと固執せざるを得ないのは、大罪だと考えた。
解説
余計な事には頭を使わない。「小事省事」である。