§1-3 諸学問とそれらの放棄

要約

私は、子供の時から、「人生に有益な明白で確固とした知識の全て」を獲得するために、文字の諸学問に努めた。
まず、文字の諸学問には次のような美点があることを学んだ。

  • 語学〔ギリシャ語・ラテン語〕
    昔の本の理解に必要
  • 寓話
    面白く、精神を目覚めさせる
  • 歴史
    精神を向上させ、批判力を養成する
  • 良書
    過去の優れた人たちと会談し、思想の粋を学べる
  • 雄弁
    力と美
  • 詩歌
    雅致と情味
  • 数学
    好奇心を満足させ、あらゆる技術をやさしくする
  • 習俗
    多くの教訓と非常に有益な勧善思想 未知の習俗に対する公平な判断力を養う
  • 神学
    天国に至る道を教えてくれる
  • 哲学〔スコラ哲学〕
    もっともらしく語る術であり、人に自分を賞讃させる方法を学べる
  • 法学や医学やその他の科学
    名誉と富をもたらす

その正しい価値を認識し、それらに誤られないようにするために、これら全てを、迷信的で誤ったものさえ考究したのはよいことだった。


しかし以下のことにも気づいた。

  • 語学・寓話・歴史・習俗
    のめり込むと、日常や世間の最新事に疎くなり、空想的になる
  • 雄弁・詩歌
    勉学の成果より天賦の才で決まる
  • 数学
    技術の役にしか立たない
  • 習俗(道徳)
    美徳の基準が違いすぎ、それらが単なる無感動や、驕慢や、絶望や、尊属殺人にすぎないことがある
  • 神学
    天国へは勉強で行くものではない。我々を天国に導く啓示は人間の理解力を超えたものであるから
  • 哲学
    数世紀来、もっとも卓越したひとびとによって開拓されてきたが、未だに全てが論争中だ。同一の問題に関しては真理は一つなのに、幾多の学者の多種多様の見解があるのは、高々ひとつの見解以外は全て偽だからだ。
  • その他の学問
    基盤が哲学であれば、その上には確固としたものは建設され得ない。
  • 錬金術・占星術・魔術
    私は騙されるには博識過ぎた。

そこで、私は教師たちの隷属から解放される年齢に達すると、文字の学問を全て放棄してしまった。

解説

デカルト(1596年3月31日 – 1650年2月11日)の時代には、今ではなくなってしまった学問もあれば、現代と評価の違う学問もあるようだ。

特に数学の評価が面白い。

現代科学は「物理学は自然科学の王であり、数学は自然科学の女王である」と言われるほど、重要なものである。相対性理論も量子力学も、微分幾何学やヒルベルト空間論とお互いに刺激し合いながら発展してきたのだ。

しかし時は、ニュートン以前である。ニュートンが生まれるのは1642年であり、彼もまたデカルトを読みながら育ったと言われているのだ。

また、数学に3大分野があるとしたら解析・幾何・代数だが、微分も群も無かったので、解析や代数は存在すらしなかったことになる。そして幾何学にも、直交座標系(デカルト座標)が無いのである。代数の誕生には、1802年のアーベルの誕生を待たなくてはならない。

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