§4 品質第一 – 納期さえ許せば。

人を投入するか、実現する機能を削るかという選択権がない場合、厳しい納期に間に合わせるために、 犠牲にできる唯一のものは品質である。

大抵の人は、自尊心を、自分の作った製品の質と強く結び付ける傾向があるため、製品の質を落としかねない厳しい納期設定は、感情に火をつけることになる。

ユーザーが最も気にするのは納期である。過度な高品質は納期オーバーの埋め合わせにはならないと考える。しかし、長い目では、市場ベースの低い品質要求は、余計なコストがかかる。そこで次の教訓が得られる。

エンドユーザーの要求をはるかに超えた品質水準は、

生産性を上げる一つの手段である。

エンドユーザーの要求をはるかに超えた品質水準を作り上げるには、価格と品質はトレードオフの関係にあるという考えを排除することである。反対に、高品質がコスト低減をもたらすと考えるべきである。

ヒューレット・パッカード社は、開発者が設定した高い品質基準によって生産性を上げ、利益を得ている企業の例である。同社のエンジニアは市場が要求する品質よりはるかに高水準の品質を自分が供給するという社風を負っていることを十分に認識している。品質に対するこうした共通認識は、仕事に対する満足感や、業界で最も低い退職率としても表れている。

日本の企業、特に日立ソフトウェアエンジニアリングと、一部の富士通の部門では、十分な品質水準に達していないと判断された製品の出荷を拒否する強力な権限をプロジェクトチームが持っている。顧客が、品質基準以下でも何でもいいから早く出荷してはしいと切望しても、出荷品質基準に達しないかぎり出荷を延期するのである。

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§3 ウィーンは君を待っている…

頭脳労働者は残業代のつかない年棒制であることが多い。

管理職は残業代のつかない部下に残業や休日出勤させて、「生産性」を水増ししようとする。そもそもこれは時間当たりの生産性とは何の関係もない数字で、単なる詐欺であるのだが、長期的に見れば、もちろんこれも下がる。

むしろ、サービス残業をさせることで、長期的には様々な問題を生み出しているように思われる。

仕事中毒は誰でもかかる病気であり、プライベートも家族も犠牲にして働き続けるが、限界に達すると仕事中毒患者は燃え尽きてしまう。そして突然退職する。とくにキーマンの退職のケースでは、そのコストは計り知れない。生産性について考えるには、この数値を考慮に入れねばならない。

次に、せかせば仕事の質が低下する。

最後に、人間は長時間労働させられると無意識のうちにサボる傾向がある。それは仕事中のおしゃべりであったり、長電話であったり、ばれないように巧妙なサボり癖になっていく。こうしたサボり癖がつくことによって、やがて12時間働かせても、その中身はやっぱり8時間分の労働でしかなくなる。

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§2-3 チーズバーガ工場式管理術(考えさせないことについて)

管理職は部下自身の頭で考えさせているだろうか?いや、むしろ考える暇があったら手を動かせと尻を蹴飛ばしている。

仕事をする上では、手を休めて頭を使う時間が必要である。しかし調査によれば、仕事のうち5%しか手を休めている時間はない。

これによってよく考えもせずひたすら間違ったゴールに向け手を動かし続けるリスクの高い働き方がまかり通っている。

ソフトウェアに関する本を読むといった基本的な学習でさえ、ほとんどのプログラマーがしたことが無いという衝撃的な調査結果まである。

(さらに…)

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§2-2 チーズバーガ工場式管理術(人材の代替について)

チーズバーガー工場と違って、頭脳労働者は誰一人として代替がきかないことを肝に銘じるべきである。

管理者は部下が辞めても補給すればよいと思っている。

でも実際には職場には「キーマン」がいて、人の何倍も仕事をしており、そうした人材は替えが効かない。

どのような頭脳労働者が「キーマン」だろうか?ここでは2通りの例を述べる。

第一に、圧倒的なパフォーマンスを発揮するスーパーエンジニアである。ある会社は、ある社員の自宅まで専用回線を引きさえした。

第二に、チームワークの要となる触媒役の人物である。こうした社員も、通常の社員の2倍以上の成果を出すことに貢献できると言える。

しかし多くの管理職は、こうした人物が辞めてもすぐに代わりが来ると思っている。実際には、キーマンの退職のコストは計り知れない

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§2-1 チーズバーガ工場式管理術(ミスの許容について)

多くの管理職は、頭脳労働者を正しく管理できていない。

例えば、管理職は部下のミスを許さないことでミスが無くなり、コストが下がると信じ込んでいる。

部下のミスを避けるには作業内容の標準化が必要で、決められたことをミスなく素早くやらせることで生産性が上がると考えている。

チーズバーガー工場ならこれは正しいかもしれないが、頭脳労働者にもこれが当てはまると思ったら大間違いだ。実際は真逆の結果になる。

作業内容の標準化はなぜいけないのか?

まず部下はミスを恐れ、消極的になる。仕事への愛着はどんどん失われていき、さらに消極的になる。そしてチームの雰囲気が悪くなる。品質はどんどん低下する。改善がされないから、品質の低下に歯止めはかからない。何かを改善しようとしても、その努力は報われないのだから誰も改善しようとしない。むしろ、余計なことをしたことで、上司に叱責される。

こうして長期的に見れば、作業内容の標準化は取り返しのつかない品質低下と職場破壊を招く。

ミスを許容し、部下に試行錯誤設計をさせれば、最終的には部下に良い仕事をさせることが出来、品質も士気も向上するのに、多くの管理職にはこのような管理が出来ていない。

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§1 ハイテクの幻影

ITプロジェクトを失敗させるのは、人に関する問題である。

ITプロジェクトを失敗させるのは技術的問題ではないのか?と多くの管理職は考えるが、技術的問題の影響はほとんど無い(そもそも、集計しかしない会計プロジェクトですらいまだに失敗している)。

ITプロジェクトはハイテク産業ではなく「人間関係ビジネス(チーム開発)」であるのに、管理職は人に関する問題を扱っていないのだ。

それでは、管理職は人に関する問題をどう扱っているのだろうか?

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