§2-3 俗物(フィリステル/Philister)

俗物とは精神的な欲望をもたない人間で、精神的な享楽をもつということがない。俗物にとっての現実の享楽は感能的な享楽だけである。したがって牡蠣にシャンペンといったところが人生の花で、肉体的な快楽に寄与するものなら何でも手に入れるということが、人生の目的なのだ。しかも、この目的のために何のかんのと忙しければ、それでけっこう幸福なのだ。

しかしまだ俗物には俗物なりの虚栄心の享楽がある。

富か位階か、権勢や威力などで他人を凌ぎ、それによって他人に尊敬されるという意味の虚栄もあれば、同じ俗物どものなかでも傑出したやつと付き合って、虎の威を借りる狐のような気分にひたるという意味の虚栄もある。俗物はその求める相手も、精神的な欲望を満足させてくれる人でなく、肉体的な欲望を叶えてくれる人である。それどころか精神的な能力を見せつけられると、嫌悪か憎悪を感ずる。富や権勢をこそ唯一の真の美点と見て、自分もその点で傑出してみたいと願っているのだから、人物評価や尊敬ももっぱら富や権勢のみによって測ろうとする。こういったことは精神的な欲望をもたぬ人間だということから出てくる帰結である。

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