要約(p128-140)
ツァラトゥストラが洞窟に帰ってきて数日後、彼は突如寝床から跳ね起きて、狂人のように叫んだ。
起きてこい、深淵の思想よ!
(…中略…)
動き出したな?のどを鳴らしたな?はっきりモノを言え!
(…中略…)
―おお、うれしや、私の深淵が口を利く!有難い!近寄れ!
―うっ!離してくれ! -嘔吐、嘔吐、嘔吐!
ツァラトゥストラは死人のように倒れ、7日間眠り込んだ。しもべの鷲と蛇は彼のそばを離れず、看病し続けたが、遂に彼が回復したとみてこう尋ねた。
新しい知恵、重たい知恵があなたのもとにやってきたのでしょう。
起き上がりこの洞窟から出ましょう。外では万物は勝手に踊り、あなたを癒す。外では永遠の円環が回っている!
ツァラトゥストラは答えた。
私の動物たちよ、おまえたちのお喋りを聞いていると私は気が晴れる。
だが私の外に「外界」などないのだ。
深淵の思想は私の喉に入り込み、息の根を止めた。私はその頭を嚙みちぎり、吐き捨てた。
その苦しみをただ見物していたとは、動物たちよ、まるで人間のようではないか?偉大な人間の苦痛に、「同情」をもって寄り集まる小さな人間たち。躍起になって生に文句をつけるが、生に逆らえない人間たち。
人間はよりよくなると同時に、より悪くならなければいけない。人間における最悪も知れたもの、人間における最善も知れたものでしかない!
私は人間を嫌悪する。
だが、その嘔吐すべき人間たちは永遠の円環に乗って無限に回帰して来る。 -嘔吐、嘔吐、嘔吐!
鷲と蛇は彼が語るのを止めた。そして彼、快癒に向かう者に、語るのではなく歌うことを勧めた。
ツァラトゥストラは「永劫回帰の教師」となった。彼は目を閉じて、静かに自らの魂と語り合っていた。動物たちは彼の周りに漂う大いなる静寂を恐れて去った。
解説
生を嫌悪する人間たちと、人間を嫌悪するツァラトゥストラは同じなのではないか。それでは、ツァラトゥストラは人間ニーチェの人間的な部分の表出に過ぎないことになってしまう。
ツァラトゥストラはそう行動しない。永劫回帰を歌い教え、嘔吐すべき人間の無限の回帰さえも「太陽の没落」として祝福するのである。