§1-2 夢

夢の世界の美しい仮象は、あらゆる造形芸術の前提である。夢の世界において、我々は物の形の直接的な理解を楽しむ。

芸術的な人間は、夢の現実に目を注ぐ。哲学者は、実生活を仮象であり夢の世界であると考える。彼らは夢から人生の意味を読みとり、その移ろいの中で人生の修練を積むのである。深い快感と歓喜に満ちた欲求を持って夢を経験することは、我々のもっとも内なる欲求であり、ギリシア人もこの欲求をアポロのうちに表現している。

語源的にいえば「照りかがやく者」、つまり光の神であるアポロは、内なる幻想世界の美しい仮象をも支配する。

ショーペンハウアーは、苦悩の世界のまっただ中で人間が生きられるのは、個体化の原理、つまり夢という仮象に支えられているからであると表現した。

だからアポロそのものを、「個体化の原理」の儚い神像とよぶこともできるだろう。

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