§1-3 陶酔

アポロの「個体化の原理」、夢の世界が打ち壊されてしまうと、人間の根底から歓喜あふれる恍惚感が湧き上がってくる。

あらゆる原始民族が讃えている麻酔の飲み物の作用。春の力強い訪れ。それらにより、ディオニュソス的な興奮が目覚め、主観は忘却へと消え去っていく。

ドイツ中世においても、ディオニュソス的な強烈な力に捕らえられた群衆が、次第にその数を増しつつ、歌い踊りながら、村から村へと波打っていった。
ディオニュソス的なものの魔力のもとでは、人間と人間の結びつきが回復されるばかりではない。自然と人問が、和解の祭典を祝うのである。いまや、奴隷は自由人の歌をうたい踊り、自分がより高次の共同体の一員であることを表明する。

人間はもはや芸術家ではない。彼は芸術品となっている。

このような熱狂者の群れは、ギリシア世界にとっては前代未聞のものであった。ディオニュソス的音楽は、ギリシア世界に恐怖と戦慄とを呼び起こしたのだ。

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