【書評】黄金色の祈り(西澤保彦)【106冊目】

概要

若さのイタサ。最悪の後味

ミステリに見せかけた自叙伝・自白なのでは?と思うほど心理描写がリアル。誰もが体験したことのある、自分のイタサ、自意識過剰、黒歴史、自分から見える自分と他人から見た自分のギャップ・・・が再生され、心理ダメージが半端ない。

これほどの後味の悪い小説はなかなかない。

傑作。

でも、朝井リョウ(何者)が出ちゃったからなぁ、それにはかなわないよね・・・

【書評】ヘッダ・ガーブレル(イプセン)【103冊目】

概要

凡人の美女が破滅する話。

凡人の嫉妬は醜い。美しい容姿と嫉妬の醜さをかねそろえたヘッダは破滅する。

究極の悪は「無能」であるという。ヘッダは無能の極致だ。

周囲に破滅をまき散らす、無能な美女。その強烈すぎるキャラクターは公開当初拒否反応を巻き起こし、名作であるにもかかわらず、批判と拒絶の嵐にさらされた。

しかし、古くならない内容である。現代社会でさえ、こういう醜い人間であふれている。

【書評】痩せゆく男(スティーブン・キング)【58冊目】

概要

ジプシーを轢き殺し、仲間と事件を隠蔽した弁護士が呪いにより何を食べても痩せ続けていくホラー。

これは面白い。

「痩せる」は、幸福な感じのする言葉だ。多くの人がダイエットしようとしては挫折して、苦しんでいる。

この本では、痩せることは凄く恐ろしいことなのだ。

この本がすごいのは、時間軸がリアルに描き出されていること。時間が経つと、人の心は変わっていく。友人だと思っていた医者が、最初は親切に手を尽くしてくれるが、次第に何をしても痩せていくことから無能感に苛まれ、主人公の存在を疎ましく思うようになっていく。

肥っている時は仲の良かった妻は、実は交通事故の原因を作った人間なのに、痩せていかない。その罪悪感は妻の精神をゆがめ、「頑なに現代医療を拒む頑固者の夫」というイメージに固定化してゆき、夫婦の関係は徐々にこじれていく。

友人の医者と妻は周囲に自分たちの信念を広げ、主人公は知り合い全員から気違い扱いをされるようになっていき、最後には強制入院命令まで発行されてしまう。

この、人の心の弱さと醜さが時間軸に沿って作り出す、社会的なダイナミズムが、秀逸だ。

もちろん、肉体的にもダメージは加速していく。痩せるだけで風邪は致命的になり、カリウムを飲み続けなければ不整脈を止められない。

万事休した彼のもとに現れたマフィアのボスの友人であるジネリ。魅力あふれるキャラクターである彼は大活躍し、たった一人の戦いで遂に状況をひっくり返すのだが・・・?!

結末も、予想できない秀逸な終わり方。スティーブン・キングの「ミスト」と同じくらい完全な後味の悪い終わり方だ。

「ププファーガード・アンシクテット」