【書評】ハイ・コンセプト 「新しいこと」を考え出す人の時代(ダニエル・ピンク)【111冊目】

概要

産業革命第一の波は農業、第二の波は機械、第三の波は情報化、第四の波は芸術だー

これからの時代は突出した個人、芸術家に組織はかなわなくなるという主張。ドラッカーが礼賛した知識労働者の時代は終わり。芸術家っていうのはジョブズとかゲーツとかのことらしい。トム・ピーターズとかとおんなじ主張。ビジネス本を乱読しては次に行く記憶喪失者向けの本。

まぁ読んでると何となくテンションが上がる感じはしなくはないけどそれだけ。ビジネス本はマジで中身がない

【書評】ニーチェ 自由を求めた生涯(ミシェル・オンフレ+マクシミリアン・ル・ロワ)【110冊目】

概要

ニーチェの伝記漫画

エゴンシーレみたいな絵柄。完成度・納得度高い。

細かいが、この本はニーチェは梅毒で死んだというアプローチ。

【書評】勝てないアメリカ―「対テロ戦争」の日常(大治朋子)【109冊目】

概要

軍事力で圧倒的に優位にあるアメリカがイラクやアフガンで勝てない理由が分かった。

1章では、爆弾の攻撃がアメリカの武装で防げないことを解説する。頭蓋骨や脳への影響により、PTSD/TBIを発症させる。これによりアメリカでは、兵士が年に5000人に1人自殺している。

3章では、2007年に生じた武力革命によって生じたアメリカの圧倒的優位が、逆に勝てない仕組みを生み出したことを解説している。タリバンの幹部はこう語る。

They have watches, we have time.

勝てないならば、テロリズムの手法を使って着実にダメージを与えながら逃げ回り、永久に戦闘を引き延ばせば、アメリカの経済は疲弊し、人も疲弊し、反戦世論がアメリカ国内で盛り上がり、勝手に敗退してくれるという理屈だ。

テロリズムは最小の費用で実行でき、彼らは失うものを持っていない。だから、長期戦に向いているという。

さらにタリバンでは「人件費」が安く、兵士を用意するのに武器込で月額16000円/人しかかからない。米軍は「人件費」だけで200000円/人であり、さらに技術革命後の兵器はとてつもなく高価で、装甲車は1台4800万円である。装甲車がないと、爆弾を防ぐことができないので必需品なのだ。さらに、戦場内にゲームセンターや31アイスクリームまで出店しているというありさまである。

さらに、アメリカの装備は圧倒的過ぎて、現地で仲間を作ることができない。どういうことかというと、米軍は装甲車で安全に移動するが、現地の協力軍はジープに5人乗り。爆弾がさく裂したときに死ぬのは、現地人の軍隊だけなのだ。

このように台風の目の役割を果たす爆弾は1000円/発であるという。

完全に算数が成り立っていないのだ。4章では無人ロボットが延々と投入され、また湯水のように金が使われる。そして現地人は、「アメリカが、ゲーム感覚で俺たちを殺すテロ事件を起こしている」と憎悪を募らせる。

2012年時点でイラク・アフガン戦争はアメリカ最長の戦争となり、かかった金額は300兆円、アメリカ側の死者は25万人となった。

オバマ大統領は2009年にノーベル平和賞を受賞した。

一方タリバンは、2012年、アフガニスタンの8割を手中に収めた。

【書評】野村證券第2事業法人部(横尾宣政)【108冊目】

概要

オリンパス粉飾決算事件ですべての罪を押し付けられた人が冤罪を主張する本

めちゃくちゃ面白い。

野村証券もオリンパスも群栄も怖すぎだ。社会で働くこと自体が恐ろしくなってしまう。

冤罪をいくら主張し、検察や証人の主張の矛盾をいくら喚きたてたところで、起訴有罪率99.9%の日本では役に立つはずもない。檻の中で、著者はこう思う。

野村証券も検察も同じなんだ。

客に損をさせる商品を売らなければいけない野村證券の営業マン。

冤罪かもしれない容疑者に自白させなければいけない検察官。

どちらもブラック企業なんだ。

著者はどちらかといえば「嫌な奴」で、人の上に立つ器で無かったから野村證券にもオリンパスにも裏切られたのだ、という見方もあるようだし、当然あっていいだろう。

だが、だからといってこんなに面白い本を全否定して得られるべきものを得ないのはもったいない。この本が途中で嫌になったら、最終章11章だけでも読んでみてほしい。特に上記のシーンは必見だ。

【書評】毛沢東の私生活(リチスイ)【107冊目】

概要

毛沢東の死を看取り、死体の永久保存を施した主治医が22年間にわたる毛沢東との人生を暴露する。

著者は本書発売の3カ月後、遺体となって発見された。

ニセモノと思うにはリアル過ぎる。

毛沢東は確かに超人的な悪人だが、横暴で好色で不眠におびえる一人間でもあったということがよくわかる。江青や華国峰の人柄も興味深い。

また、本書は教養高い中国人が書いているために、情報の質が極めて良い。例えば、

  • 毛沢東は自分を「傘をさす和尚」と自称していたが、実はこれは「無髪無天」と同じピンインの「無法無天」という意味である。その意味は、

    「自分こそ法であり、神である」

    という意味だった。外人記者は完全にこれを文字通りに受け止め、毛沢東の孤独感として報道してしまったのだった。

  • 毛沢東が理想の君主としていたのは紂王だった。(封神演義でおなじみ、酒池肉林などで有名)

このように、毛沢東を理解するうえで、中国語や中国古典を知らないとわからないことが多いのである。

面白い。

【書評】黄金色の祈り(西澤保彦)【106冊目】

概要

若さのイタサ。最悪の後味

ミステリに見せかけた自叙伝・自白なのでは?と思うほど心理描写がリアル。誰もが体験したことのある、自分のイタサ、自意識過剰、黒歴史、自分から見える自分と他人から見た自分のギャップ・・・が再生され、心理ダメージが半端ない。

これほどの後味の悪い小説はなかなかない。

傑作。

でも、朝井リョウ(何者)が出ちゃったからなぁ、それにはかなわないよね・・・

【書評】共産主義黒書アジア編(ジャン=ルイ・マルコラン)【104冊目】

概要

中国・北朝鮮・ベトナム・ラオス・カンボジア。ソ連は崩壊しても、これらの共産主義国家は生き残っている。

共産主義が犯した虐殺についての話。虐殺の話が多すぎて、まるで虐殺しかしていないのではないかと目がくらむ思いがする。

中国でも北朝鮮でもベトナムでもラオスでもカンボジアでも共産主義政府が十万人単位で人を殺していく。資本主義と共産主義のどちらが良いのかは理論的には結論は出ないだろうが、数十万人が死んでいくのは共産主義だけだ。

王政も含めれば、もっと死に満ち溢れた政治形態があるのかもしれないが、とりあえず共産党と共闘したシールズの人はこの事実を勉強したほうがいいと思った。

【書評】ヘッダ・ガーブレル(イプセン)【103冊目】

概要

凡人の美女が破滅する話。

凡人の嫉妬は醜い。美しい容姿と嫉妬の醜さをかねそろえたヘッダは破滅する。

究極の悪は「無能」であるという。ヘッダは無能の極致だ。

周囲に破滅をまき散らす、無能な美女。その強烈すぎるキャラクターは公開当初拒否反応を巻き起こし、名作であるにもかかわらず、批判と拒絶の嵐にさらされた。

しかし、古くならない内容である。現代社会でさえ、こういう醜い人間であふれている。