【書評】Quiet 内向型人間の時代(スーザン・ケイン)【59冊目】

概要

成功者とされてきたのは外交的人間である。内向的人間が成功する道を探る。

最高のリーダーは何もしないよりも、だいぶしっかりした感じの本。ロジックが通っていて主張が明確だし、科学的で、論文書籍の引用も明確。これを読めば前者を読む必要はない。

ロジックはこうである。外交的なリーダーシップの神話は幻想である。歴史を振り返ると、人類を発展させてきたのは内向的な人間だ。内向的な人間は外交的な人間になる訓練を強いられている。それは自己啓発セミナーだったり、ハーバード・ビジネス・スクールだったりする。身近な学校教育でさえそのように変化してきている。

しかし、それは全く間違っていて、内向的人間は内向的人間のまま成功することを目指すべきである。なぜなら、発達心理学者ジェローム・ケーガン教授の実験が証明したように、「外交性/内向性は生まれか育ちかでいえば生まれ(扁桃体の反応性)で決まる」からである。つまり先天的であり、後天的に変化させるのは難しいのだ。ケーガンの実験はナチズムの優生主義と非難されたが、結局は事実だった。ではどうすれば良いか?

外交的人間の弱み

  • 大きな影響力で、全員を間違った結論に導くことがある
  • 自信過剰
  • 考えが浅いまま行動に移してしまう(ペンギンのアリスのように)
  • 学習しない。部下の助言を却下しやすい
  • 部下のスピードを抑圧するので組織のスピードが遅くなる
  • ブレインストーミングなど、集団作業により質も量も落ちることが証明された手段を好む傾向

内向的人間の強み

  • 助言を受け入れやすい
  • 部下の外交的人間のスピードが最大限生かされる
  • 単独で独創的な考えができる
  • 用心深く、あらゆる可能性を考える
  • 当たるとデカい。世界を変えることがある(アインシュタインやビルゲイツのように)

【書評】痩せゆく男(スティーブン・キング)【58冊目】

概要

ジプシーを轢き殺し、仲間と事件を隠蔽した弁護士が呪いにより何を食べても痩せ続けていくホラー。

これは面白い。

「痩せる」は、幸福な感じのする言葉だ。多くの人がダイエットしようとしては挫折して、苦しんでいる。

この本では、痩せることは凄く恐ろしいことなのだ。

この本がすごいのは、時間軸がリアルに描き出されていること。時間が経つと、人の心は変わっていく。友人だと思っていた医者が、最初は親切に手を尽くしてくれるが、次第に何をしても痩せていくことから無能感に苛まれ、主人公の存在を疎ましく思うようになっていく。

肥っている時は仲の良かった妻は、実は交通事故の原因を作った人間なのに、痩せていかない。その罪悪感は妻の精神をゆがめ、「頑なに現代医療を拒む頑固者の夫」というイメージに固定化してゆき、夫婦の関係は徐々にこじれていく。

友人の医者と妻は周囲に自分たちの信念を広げ、主人公は知り合い全員から気違い扱いをされるようになっていき、最後には強制入院命令まで発行されてしまう。

この、人の心の弱さと醜さが時間軸に沿って作り出す、社会的なダイナミズムが、秀逸だ。

もちろん、肉体的にもダメージは加速していく。痩せるだけで風邪は致命的になり、カリウムを飲み続けなければ不整脈を止められない。

万事休した彼のもとに現れたマフィアのボスの友人であるジネリ。魅力あふれるキャラクターである彼は大活躍し、たった一人の戦いで遂に状況をひっくり返すのだが・・・?!

結末も、予想できない秀逸な終わり方。スティーブン・キングの「ミスト」と同じくらい完全な後味の悪い終わり方だ。

「ププファーガード・アンシクテット」

【書評】なぜ人類のIQは上がり続けているのか(ジェームズ・R・フリン)【57冊目】

概要

人類のIQの平均値は64年で20も上昇している。

統計学者スピアマンはIQの主要因子「g」と「s」を提唱した。gはgeneralの略で、自頭の良さを指す。あの人は何でもできる、というあれである。sはspecialの略で、特定の分野の才能を指す。

IQは世界中で上昇しているが、gは上昇していない。つまり、IQはsに属する特殊能力である。特に、IQは「抽象的概念」を操る能力である。

さらに、IQは後天的に上昇させることができる。世界はどんどん専門分化して、仕事の内容も抽象化が進んでいるし、スマホなど、抽象的概念を扱うデバイスが年々増え、日常的に要求される抽象能力も上昇傾向だから、IQが世界で平均的に上昇することは、仕事と日常生活によって鍛えられているためであろうと納得できる。

発展途上国のIQが低いのはその結果だと考えられる。つまり、発展に必要なIQが無いのではなく、発展がIQをもたらすのだ。

ただし、アメリカなどの先進国では、IQが低くても、アジア人であるだけで欧米人より知識詰め込み型のテストの成績は良くなることが分かっている。知識は、学習習慣によりIQとは別に鍛えられるのだ。つまり、

  • g
  • s
  • 知識

は異なる能力であることが分かった。

【書評】セックスと恋愛の経済学(マリナ・アドシェイド)【56冊目】

概要

ブリティッシュコロンビア大学の授業の教科書。

1つ目の問題

膨大で単発的な統計的事実の羅列が多い。その事実一つからはなんとも言えないことが多い。例えば以下の統計的事実は何を意味するか?

40才の未婚女性がその後結婚する確率は、テロリストに殺される確率より低い。

字面は面白いが、何の意味があるのかは明らかではない。

2つ目の問題

セックスと恋愛と結婚を経済学的に解説しようとしているので、変数が少ない。もちろん、意図的に視野を狭くしているのだ。しかし、その結果はほとんど説得力がない。

結婚において考えられる変数は、お金と容姿である。それらの変数も、正確に計測できるために、お金と容姿に限定されている。投票で順位を決めれば、容姿も定量的変数になるのだ。例えば、この実験プロトコルに基づいて、以下の統計的事実が発見されている。

容姿下位の女性は、もし相手が同等レベルで裕福ならば、容姿下位の男性を容姿上位の男性より選好する。

つまり、チャンスに恵まれない女性は、リスクを回避し、浮気しなそうな男性を選ぶということである。

しかし、お金と容姿以上に影響のある、「価値観の一致」はどうしたのだろうか?長期的に結婚生活を成功させるためには、重要な部分で価値観が一致していなければならない。

とすれば、現実を説明するために、現実からあまりに離れてしまった理論にどうやって興味を持てばよいのだろう、ということになってしまう。

【書評】「こころ」に書き写す言葉 『天籟の妙音』から(安岡正篤)【55冊目】

概要

儒学者による名言集。

新氏の本で紹介されていた安岡正篤。

「多長根」もこの本の21ページ目に載っている。

断片的な名言集なので本来の意図を読み取れないところは多いが、たまにすごいことが書いてある。例えば以下。

太い筆で細かい字を書くのが人生を渉る秘訣だ。

など。

【書評】小さなチーム、大きな仕事(ジェイソン・フリード、デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン)【54冊目】

概要

常識の逆、つまり会社を小さく保つ術を説く経営書。by 37 signals

2010年当時はこれが最新の「哲学」で、本屋に平積みされていた。原題は”Rework”。労働に対する世間の常識を疑い、労働を組み立てなおすという本だ。

この本は売れた。なんといっても37 signalsという会社は、Ruby on Railsを作った会社だからだ。

目次

本書は何の本で、何が言いたいのだろうか。本書はカリスマ経営者が書いたものだけに引き込まれるものがあり、読むだけでハイテンションになってくる。これはこれですごい才能だが、冷静に読むと脈絡が難しい。

そこで目次に戻ってみようと思う。

  1. 見直す 常識を疑うことを説いている。
  2. 先へ進む スモールビジネスを今すぐ始めろと説いている。
  3. 進展 本質にのみフォーカスし、製品の核を育てる方法を説いている。
  4. 生産性 より少なく働き、無駄をそぎ落とすことについて説いている。
  5. 競合相手 本質で勝つために、それ以外はすべて競合相手以下に抑えるべきと説いている。
  6. 進化 顧客の声を否定し、アウフヘーベンすることから現状脱却が生まれると説いている。
  7. プロモーション 大々的な広告でない、効率的なプロモーションについて説いている。
  8. 人を雇う 最高の逸材のみを雇い、人を増やさないべきだと説いている。
  9. ダメージコントロール 素早く対応することで最小労力でダメージを軽減すべきと説いている。
  10. 文化 本物の文化を自然に育てる方法について説いている。
  11. 最後に ひらめきは今実行しなければ賞味期限を過ぎてしまうと説いている。

つまり、これは読者が会社を作って、軌道に乗り、文化が定着するまでに「気を付けるべきこと集」である。ただ重要なのが、このまとまりのない本の底に流れる彼らの信念。

「小さい組織であり続けることの計り知れないメリット」

だ。

【書評】SOY!大いなる豆の物語(瀬川 深)【53冊目】

概要

大豆をめぐる冒険小説。

筑波大学を出たが鬱病でわずか1年半でSE会社を辞めてしまった原陽一郎。仲間とともに同人ゲーム作りに精を出すさえない彼に、パラグアイの日系大富豪の遺産管財人の立場が舞い込む。彼はグローバル穀物メジャーSoyysoyaの長。しかしそのプレッシャーに陽一郎は耐え切れず、大富豪のルーツを追って果てしない探求の旅に出てしまい・・・

そして世界は大豆により終焉を迎える。

大豆は時空を超えて、岩手、満州、パラグアイを駆け巡る。

著者の凄まじい博識に感心するとともに、とても勉強になってしまう謎の小説だ。

【書評】シンプルに考える(森川亮)【52冊目】

概要

LINEの社長の経営哲学の本。

偉い人はいらない

「偉い人はいらない。」

偉い人とは、みんなが従っている人のことである。それも怖いから。いやいや。会社での上下関係があるから。

そんな人が現場に介入すると、仕事のクオリティが下がる。いやいややっているからである。

偉い人が方針を打ち出しても、単に、「それに沿ってさえいれば叱られない」という、ただの免罪符になる。仮にそれが良い方針であっても試行放棄を招くし、施策の幅を狭める。結果として、やっぱり仕事のクオリティが下がってしまう。

だから、「偉い人はいらない。」森川亮はそう語る。

森川氏が社員にこれなんで?とメールをしても、ほとんどスルーされる。相手は自分のことを偉いと思ってない、これでいいのだ。

語り口

この本、内容も面白いが、森川氏の天性の柔らかい語り口が魅力である。

何か、この人の世界に引き込まれる感じがする。

実力

森川氏の経歴はすごいのである。テレビ局→SONY→LINE社長である。しかも、いつも上司と喧嘩してやめている。MBAも取得されている。だから激しい人であって、単純に厳しい上司から逃げたいというような人ではない。

その人が、自分の体験をもって偉い人はいらない。と語る。そこも面白い。

【書評】虚無への供物(中井英夫)【51冊目】

概要

日本三大奇書の1つ。アンチ推理小説と言われる。

氷沼家殺人事件に挑む、4人のアームチェア・ディテクティブ。奇想天外な推理が絡み合い、事態は混迷を極めていく。しかし真の殺人者の胸に秘めたあまりにも悲痛な思いが読者の心を打ち・・・遂にアンチミステリを完成させる。

傑作なのは間違いない。読了後には複雑な気持ちになり、人にどう勧めてよいかわからなくなる。

作者は着想から完成まで10年を要しており、この作品を後世の作家が超えるには何らかの奇跡が必要だろうと思われる。推理小説の残酷さを、考えに考え抜いた出来である。

推理小説など、意外に人生で何冊も読めないものである。どうせ推理小説を読むのなら、容疑者Xの献身を読むより、すでに何十年も不動の地位を気付いている、日本三大奇書からのほうがいい。

【書評】会社が嫌いになったら読む本(楠木新)【50冊目】

概要

こころの定年が来てしまったら、どう生きていけばよいのだろう。

著者は大企業にいたが、47歳でうつ病を発症。本来の定年年齢よりさきに、「こころの定年」が来てしまったことに気付く。気付けば周りもみな、こころの定年という問題に直面していた。大学に入り、彼はこころの定年についての研究をまとめることを決意、200人の転身成功者にインタビューを行い、卒論をまとめた。

必ず聞かれるのが、次の質問だそうだ。

転身に成功すると、年収は上がるのですか?

転身によって「必ず年収は下がる」というのが著者の調査結果。しかし、会社にいることで、人間はお金や数字でしか人生を測れなくなってしまう。だから、会社員は必ず上の疑問を口にするのだという。

著者は人生は「いい顔」をして生きられるかどうかであり、いい顔かどうかで成功者かどうかを直感的に判断してインタビューしてきたという。

実例については、この本はいたずらにケーススタディにはならず、クラスタ代表元の7例だけが紹介されている。