【書評】方舟(しりあがり寿)【24冊目】

概要

美しい滅び。

ある日大洪水がやってきて、世界の全てが水没し、人間が全員死ぬ。

しりあがり寿はてっきりギャグ漫画家だと思っていた。この漫画には、確かにこの飢えなく美しい滅びが描かれている。衝撃の一冊。

【書評】グローバル資本主義を卒業した僕の選択と結論(石井至)【23冊目】

概要

東大理Ⅲ出身の著者が投資銀行に入り、2年目で年収5000万を叩き出し、32歳でアーリーリタイアした。いったい彼は何を考えて働き始めどういう結論に至り仕事を辞めたのか。

もう概要だけでほぼほぼ紹介を終えてしまったのだが、読んでいてこの人は本当に頭がいいなあと感心する。こういう人の思考回路を垣間見て見るのも、面白いのでは。

ところで、なぜ2年目で5000万円もらえる人がいるのだろうか。それは、業種間格差があるからであると思われる。マネージャーは数億貰っていたと書いてあるから、当時この業種では5000万円は平均以下だったのではないか。

もう長い歴史で証明されているように、資本主義と金融経済は富を偏らせるシステムである。そのことを20歳くらいまで認識していたかどうかで、人生は大きく変わってしまう。

資本主義は残酷と言えば残酷だ。

【書評】世界の半分が飢えるのはなぜ?(ジャン・ジグレール)【22冊目】

概要

発展途上国の飢えが人災、具体的には軍政の腐敗と投機市場の暴力によるものであることを喝破する。

「好き嫌いをいうなら、アフリカの飢えている子供達にあやまりなさい」

そう言って子供を叱る親は罪深い。飢えという問題の本質を理解せず、間違った情報を利用して、未来を担うべき子供に教育しているのだから。そして、自分の間違いに薄々気付きつつ、躾がしやすいからという身勝手な理由で、それを悪用しているのだから。

子供に飢えの本当の理由を理解させようというジグレール教授の試みは、画期的である。

飢えの原因が、軍政と先進国である資本主義諸国の市場操作であることを認識していれば、アフリカに物資を補給しても、殆どは軍に略奪され、大衆に行き渡らないのがわかる。また、食料を輸入する際に、市場が変動すれば、小麦の量がレートに反比例することがわかる。誰かが儲けるために誰かが餓死するという、死のトレードが毎日公然と行われているのが資本主義社会だとジグレール教授は言う。

無責任な大人にならないために、この本を読んでおきたい。

【書評】君たちはどう生きるか(吉野源三郎)【21冊目】

概要

舞台は1930年代。コペル君という少年に、友達が増え、友達を裏切り、友達と和解し、精神的成長を遂げる物語。

もともと小学生向けに書かれたのだが、大人になってこれを読んで、身につまされた人は多いらしい。ただ歳をとるだけでは、人は勇気も偉大さも得られないからだ。

物語の冒頭は、コペル君が突然、自分が社会の中の一員でしかないことを自覚することから始まる。ビルの屋上から雑踏を見下ろしていた時に、コペル君は突然そのことに気がつく。

それは、幼年期の自分中心の考えからの脱皮であり、突然社会の存在を意識するようになることだ。これが天動説から地動説への転換のように、その人に見える風景を丸っきり変えてしまうということで、本田潤一はコペル君と呼ばれることになるのである。

頭の回転の早いコペル君は人気者となり、

  • 金持ちの友達
  • 勇気のある友達
  • 貧乏人で、いじめられている友達

の3人の友達ができる。

しかし、頭でっかちのコペル君はこの3人を手酷く裏切ってしまうのである。

人間が立派になろうとするためには直視しなければいけない、卑劣さという心の弱さを描き出した名作だと思う。

【書評】人はなんで生きるか(トルストイ)【20冊目】

概要

トルストイの宗教的な短編小説集。5話からなる。1話は30ページ程度。

私はキリスト教徒ではないのだが、こんなに感動するとは思わなかった。

自らの宗教観を押し付けることはせず、人生の様々な分岐点が絵画的に描かれていて、自ずと考えさせる作りになっている。しかもどの話も丁度いい長さだ。

まさかトルストイがこんなに面白いとは思わなかった。

【書評】アメリカの鱒釣り(ブローティガン)【19冊目】

概要

天才が書いた短編小説。

どの話も2ページほどで、最長でも10ページほどである。

アメリカの鱒釣りの詩的世界は、言語の中にしか存在しない世界だ。どうしてもこの小説を現実の世界でやると、どういう光景になるのか想像がつかない。

こんな小説が書ける人間が他にいるのだろうか。

困ったことに、単にユーモアと見ても抜群に面白いのだ。しかも全体を貫く通奏低音のようなテーマもある。鱒なのだが。

世界で最も面白い短編小説の一つであるに違いない。

【書評】どこにもない国(アメリカ作家)【18冊目】

概要

幻想小説のアンソロジーなのだが・・・

この本に収められている作品は本当に奇怪である。どこで起きたのか?いつ起きたのか?なぜ起きたのか?なぜそんなことを思いついたのか?全くわからない話ばかりだ。しかも単純に面白い。

個人的に、小説や映画といったものは、そのストーリーが全く聞いたことがないものであるという評判がなければ観ないようにしている。

またこのパターンか、と思って失望するから。

同じような価値観の人には、これは鉄板だと是非推薦したい。

【書評】薔薇の名前(ウンベルト・エーコ)【17冊目】

概要

中世ヨーロッパを舞台にした推理小説。

まだ聖書が修道僧により手で書写されてコピーされていた、我々には想像もつかない時代が舞台である。

ウンベルト・エーコは高名な言語学者であり、想像もつかないようなとてつもないトリックが散りばめられているのが魅力である。

特に、迷宮好きな人間にはたまらないだろう。世界で最も面白い推理小説といっても過言ではないかもしれない。

【書評】グローバル・マインド 超一流の思考原理(藤井清孝)【16冊目】

概要

マッキンゼーからハーバードビジネススクール、ウォール街、大企業の経営者、シリコンバレーへという超一流の経歴を突っ走ってきた著者が、自伝を通して、日本の教育問題「正解への呪縛」を提起する。

著者は新卒で三菱商事を蹴ってマッキンゼーに入り、ルイヴィトン日本支社の社長などをしていた人。

中身はまさに「超一流の思考原理」で、こんな考え方をする人がいるのかという実例が並んでいて面白い。

世界のほとんどの富を握っていると言われる富裕層の世界を垣間見れるのも面白い。

結論である教育問題についても、納得できる。皮肉なことに、この人のきらびやかな経歴自体が「正解への呪縛」に弱い日本人に突き刺さっている気がするのだ。この本を読んだ若者ほど、ハーバードでMBAを取ることを夢見るのではないだろうか?・・・

【書評】最強組織の法則(ピーター・センゲ)【15冊目】

概要

システム理論学者のピーター・センゲが、システム理論を経営と組織論に当てはめた理論書。

システム思考というのは、個別最適化の逆で、全体を俯瞰して、パターンを見つけるようなプロセスのこと。

伝統的には、問題に取り組むときはそれを細かい要素に分け、コントロール可能な部分に介入する。これは還元論とか、個別最適化とか、分割統治法とか言われている考え方である。

システム思考の場合は、全体を俯瞰してパターンを見つけてから、ボトルネックの部分にコントロール可能な変数がないか探し、介入するという方法をとる。

一長一短であるが、還元論の場合に絶対に解決できない問題が解決する場合があるのと、レバレッジが効いて効率が良い場合があるのがシステム思考の特徴である。

この本は、組織論への応用が主眼だが、本当に面白いのはこのシステムのパターン7種類を説明した部分だ。

組織論

これからの時代の強い組織とは、学習する組織である。

それを構成する要素は、組織の「志」、組織内の「会話」、そして「システム思考」だ。

組織が大志をもつとは、個人の専門性が非常に高くありながら、目指すべき理想のビジョンが共有されていること。

組織の会話は、ビジョンを共通言語として使い、さらに問題に向き合ったものでなければならない。ギャップが正しくとらえられ共通認識にならないと、一丸となって志に向かってテンションを保つことができない。

そして、根本的で効果的に問題にアタックするための武器がシステム思考である。

システム思考

構造的問題のパターンは、次のパターンを持つことが多い。

  1. 成長の限界(Limits to Growth)
  2. 問題のすり替え(Shifting the Burden)

このような問題は、ほとんどの人が全体像をつかめないことから起きている。システム思考を共通言語化することで、問題の全体像を共有(Shared Vision/Mental Model)することができる。

まとめ

学習する組織については、理論上発明されたが、コモディティ化はされていない状態で、それを実現するために著者はこの本を書いたという。しかし、こんなに難しい理論が、コモディティ化することなどありえるのだろうか。

たぶんこの理論は難しすぎるのだ。なぜなら、日本語訳は、なんとこの本の本質であるシステム思考の部分を章ごと省略してしまっているのだから。訳者が内容を理解できなかった可能性もあるし、訳者が「一般人には理解できないから飛ばしたほうが分かりやすいだろう」と判断した可能性もある。

とりあえずは、未来ある頭のいい人がこの本を読んでくれることを期待している。