【書評】持たない幸福論(pha)【74冊目】

概要

働きたくない。家族も欲しくない。を実践した人の人生哲学。

お金を使う機会や趣味が無い。とても辛い労働や人間関係を耐えて、お金を稼ぐ価値があるとは思えない。そんな時でも、最低限のお金は必要になってしまうから、やっぱり働かざるを得ない。

でももし、人が本当にニートになって、山奥の古民家に引き籠ってしまったらどうなるんだろうか?

これはそれを実践した「pha」さんの人生哲学の本だ。

解決されていない問題

価値観は思いのほかシンプルで、上記以外何もない。以下の問題は解決しないままだが、それでいいと割り切ってるみたいだ。

  • もし、今後価値観が変わって、家族が欲しくなったら?
  • もし、大病にかかったら?
  • 老後はどうするのか?

居場所を作る能力

嫌いな人とは距離を置いたり、自分で主催することに気を付ければ、居場所は作れるという。会社も家族も人間にとっては「居場所」の一つだったりする。

この人は、そうした居場所から、いろんなものをもらったり、楽しみを享受したりしている。とても楽しそうだ。

他者への関与

この本に書かれているのは自己満足的な考えで、自分の楽しみを追った一つの最終形態かもしれない。人によってはこれでいいし、上記のようなリスクも減らす努力の余地がありそうだ。

でも、これを読むと、レヴィナスを思い出してしまう。

レヴィナスは人間は世界から享受するエゴイズムを脱して、子供を作るか、社会貢献しなければ人生には意味がないと考えた人だ。

著者は家族は欲しくないと言っている。では、この本を出したり、共同生活をすることが、社会貢献なのだろうか?

この本は言葉を悪く言えば、究極のエゴイズムだ。かといって私にはレヴィナスの哲学は完全には理解できない。今夜もまた、結論が出ずに繰り返し考えることになりそうだ。

 

【書評】ストーカー加害者:私から、逃げてください(田淵 俊彦)【70冊目】

概要

ストーカー加害者の心の中を、本人の口から語らせる。

「私から、逃げてください・・・」

タイトルからしてやばい。

本書は、テレビ番組の製作者(ディレクター)が、ストーカーのカウンセラーに本物のストーカーを紹介してもらい、インタビューした本だ。

物凄く恐ろしい内容で、30ページに一回は本を閉じてしまっていた。通読するのにかなり時間がかかった。

「本当に、ストーカーは頭が狂っていたのか。」

これが、この本を読んで感じた正直な感想だ。

この本のいいところは、取材者が、本当にしつこく、加害者たちの論理の飛躍を問い詰めるところだ。加害者たちはしつこく追及されることを苦にせず、実に論理立てて、どういうロジックでその考えに至ったのかを詳細に説明してくれる。だから、我々も、その考えに至る「必然性」がなんとなくわかってしまう。この体験は、ある意味狂気の世界に我々の側から一歩近づいてしまうことを意味する。

だから読んでいて、自分の頭までおかしくなってしまうような気持に駆られる。焦燥する。だからショックを受けて、本を閉じてしまう。

この本、あまり売れてないようだが、類書は無く、マストリードであることは間違いない。

なぜなら、経済の悪化と、都会人の孤立化によって、ストーカー加害者は今後数十年増え続けるのだから。

【書評】清貧の思想(中野孝次)【48冊目】

概要

清貧=所有を否定する思想の必然性を解説した本。

今も昔も、富を得るためには人から奪うしかない。ブラック企業の社長は社員を死ぬまで働かせる。大企業は下請け企業から搾れるだけ搾り取る。政治家だって不正献金や不正会計まみれである。だから、富める者は誰よりも奪った者で、最も醜い人間と言えるだろう。

しかし人の心は弱い。その事実を見て見ぬふりして、誰もが金持ちになりたいと思うものである。みんな搾取されながら、搾取する側になることに憧れている。それは情けないあり方ではないだろうか。

そうではない人々がいた。彼らは非所有を貫き、むしろ私財を売り払って貧しい人々に分け与えさえした。そうした人々の心の中では、どのように、精神が肉体の欲望に打ち勝ったのだろうか?著者は彼らは無理をしていたのではないと言う。そうした人々の頭の中で進行していたであろうロジックを解説し、清貧が一種の必然性を持つ思想であることを明らかにしようと試みている。

清貧自体は、アッシジのフランチェスコや、釈迦、老子など、外国にもそれを貫いた有名な人がいるある程度普遍的な思想である。