概要
麻薬戦争における、麻薬捜査官とカルテルの血で血を洗う戦い。
メキシコとアメリカの国境では、何十年も「戦争」が起きている。アメリカの麻薬警察と、メキシコのカルテルが、果てしないいたちごっこを続けているからだ。
あらすじ(ネタバレ) アート編
主人公アートは麻薬警察の一員として無頼に任務をこなしていたが、ある時自分の上司が実はカルテルの大ボスであることに気付いてしまう。カルテルの大ボスが、身分を隠して警官となり、裏から操作を巧妙に捻じ曲げ、私欲のために役立てていたのだ。
ボスの名前は「テイオ(叔父貴)」バレーラ。バレーラは天才的な戦略家だ。
我々の武器は麻薬ではない。広大な、アメリカとメキシコとのこの国境線だ。
何度取引の現場や麻薬生産所を浄化しても、国境のどこかに新しいルートが生まれ、無限にカルテルの富は増え続けていく。
とはいえ、200ページほどの戦いにより、ついにアートはバレーラを倒すことに成功する。この200ページの間に多くの重要人物が死ぬ。しかし、何かがおかしい。相変わらず、無限のいたちごっこは繰り返され、何も変わらない。アートが倒したのは「ケルベロス」計画のごく一部に過ぎないことを知る。
ケルベロスとは、アメリカと共産主義の戦いであり、市民が知ってはいけない領域にアートは踏み込んでいたのだ。
それと同時に、バレーラの甥二人組が頭角を現す。この二人は全く正反対の性格で、互いに補い合い、バレーラより厄介であった。
あらすじ(ネタバレ) カラン編
ニューヨークの貧民街ヘルズキッチンには、多くのアイルランド系移民がいた。彼らは虐げられていた。カランは生まれつき、残忍ではないが冷酷だった。何度も命を落としかけたが、躊躇なく殺人を犯すことで生き延びてきた。
気付くと、トップとして町を牛耳るようになっていた。カランは空虚さと家族への愛から引退した。
しかし、一度殺し屋になったものは負の連鎖から抜け出すことができなかった。家族を失い、カランは麻薬戦争のキーパーソンとして巻き込まれていく。
この二人を軸として物語は進んでいくが、富裕層出身で美男子の快楽殺人者マルチネス(バレーラ兄弟の部下)など、濃いキャラや見どころが多い。
逆に絶世の美女の娼婦というお色気キャラが出てくるのは、大衆エンターテイメント作家のドン・ウィンズロウらしい。
復讐が連鎖し、次々に主要キャラがカルテルの幹部は殺され、世代交代していく。それでもカルテルの力は衰えないどころか、全てを飲み込んでいく。麻薬とはここまで恐ろしい力だったのか。麻薬の秘める無限の可能性は、個人を破滅させるどころか、世界を一変させていく。
「【書評】犬の力(ドン・ウィンズロウ)【64冊目】」への1件のフィードバック