【書評】自分を見つめる心理学(加藤諦三)【76冊目】

概要

自己中心的なナルシシズムと劣等感により、「間違った生き方」をしていることに気づこう。

なんでこんなに自分のことが知られているんだ・・・と思わされる本。

「自分は何者なんだ?」をテーマにした本は多い。でも、こんなに耳に痛いことをズバズバ言ってくれる本があっただろうか。

あなたが悩むことが多いのは「愛されなかったからだ」と言う。

愛されなかったからこそ自信が持てず、周りが皆敵の中で生き残るために、能力と言う武器を磨いてきた。社会に認められ、尊重されるために。

でも、それは実は間違った生き方で、そんな生き方をしても幸せになれないということに、早く気付くんだ。

  • 自己中心性
    「こんなに頑張った自分は偉い」そんな考えには、自分しか出てこない。
    「頑張った自分がなぜ愛されないのか」これを、ナルシシズムという。
    これは本質的には自分だけおいしいところを食べよう、という考えに過ぎない。
    「頑張って支えてくれているみんな」が視界に入っていないのだ。
  • 劣等感
    「力が欲しい。力があれば、みんなが認めてくれる」力を得ても、もっと欲しくなるだけだ。
    成功者が自分を成功したと思えない現象を、偽名現象という。まさにその状態だ。
    「なぜあいつは努力しないんだ」力を求める人間は、弱者に厳しい。
    だから、みんなに認められないのだ。
    「力以外の、多様な価値観」を認められないのだ。
    結局はあなたと同類の「力の信奉者」が、あなたを利用しようとして集まってくるだけ。

グサグサ来る。心がズタズタにされる。

この著者の文体は簡潔で、過激で、根拠が明快で、正論で、ズバズバ切り込んでくる。

【書評】持たない幸福論(pha)【74冊目】

概要

働きたくない。家族も欲しくない。を実践した人の人生哲学。

お金を使う機会や趣味が無い。とても辛い労働や人間関係を耐えて、お金を稼ぐ価値があるとは思えない。そんな時でも、最低限のお金は必要になってしまうから、やっぱり働かざるを得ない。

でももし、人が本当にニートになって、山奥の古民家に引き籠ってしまったらどうなるんだろうか?

これはそれを実践した「pha」さんの人生哲学の本だ。

解決されていない問題

価値観は思いのほかシンプルで、上記以外何もない。以下の問題は解決しないままだが、それでいいと割り切ってるみたいだ。

  • もし、今後価値観が変わって、家族が欲しくなったら?
  • もし、大病にかかったら?
  • 老後はどうするのか?

居場所を作る能力

嫌いな人とは距離を置いたり、自分で主催することに気を付ければ、居場所は作れるという。会社も家族も人間にとっては「居場所」の一つだったりする。

この人は、そうした居場所から、いろんなものをもらったり、楽しみを享受したりしている。とても楽しそうだ。

他者への関与

この本に書かれているのは自己満足的な考えで、自分の楽しみを追った一つの最終形態かもしれない。人によってはこれでいいし、上記のようなリスクも減らす努力の余地がありそうだ。

でも、これを読むと、レヴィナスを思い出してしまう。

レヴィナスは人間は世界から享受するエゴイズムを脱して、子供を作るか、社会貢献しなければ人生には意味がないと考えた人だ。

著者は家族は欲しくないと言っている。では、この本を出したり、共同生活をすることが、社会貢献なのだろうか?

この本は言葉を悪く言えば、究極のエゴイズムだ。かといって私にはレヴィナスの哲学は完全には理解できない。今夜もまた、結論が出ずに繰り返し考えることになりそうだ。

 

【書評】ストーカー加害者:私から、逃げてください(田淵 俊彦)【70冊目】

概要

ストーカー加害者の心の中を、本人の口から語らせる。

「私から、逃げてください・・・」

タイトルからしてやばい。

本書は、テレビ番組の製作者(ディレクター)が、ストーカーのカウンセラーに本物のストーカーを紹介してもらい、インタビューした本だ。

物凄く恐ろしい内容で、30ページに一回は本を閉じてしまっていた。通読するのにかなり時間がかかった。

「本当に、ストーカーは頭が狂っていたのか。」

これが、この本を読んで感じた正直な感想だ。

この本のいいところは、取材者が、本当にしつこく、加害者たちの論理の飛躍を問い詰めるところだ。加害者たちはしつこく追及されることを苦にせず、実に論理立てて、どういうロジックでその考えに至ったのかを詳細に説明してくれる。だから、我々も、その考えに至る「必然性」がなんとなくわかってしまう。この体験は、ある意味狂気の世界に我々の側から一歩近づいてしまうことを意味する。

だから読んでいて、自分の頭までおかしくなってしまうような気持に駆られる。焦燥する。だからショックを受けて、本を閉じてしまう。

この本、あまり売れてないようだが、類書は無く、マストリードであることは間違いない。

なぜなら、経済の悪化と、都会人の孤立化によって、ストーカー加害者は今後数十年増え続けるのだから。

【書評】桐嶋、部活やめるってよ(朝井リョウ)【42冊目】

概要

スクールカーストを題材にした小説。

結構面白い。

だが、リアルにスクールカーストの世界を楽しみたいのに、無理やり明るくしたいのか、「それは起こりえないだろ」という偶然の繋がりや病気の設定が結構冷めさせてくれて、何とも言えない。

リアルさが徹底された「何者」が、やっぱり傑作だと思う。

【書評】特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ(五百田達成・堀田秀吾)【40冊目】

概要

心を温めなおすためのハウツー本。

タイトルにつられて、つい買ってしまった本だが、タイトルでほぼ落ちがついている。

中身は48個のハウツーから成り立っている。一見いいことを言っているような気もするが、どれも話に一貫性・論理性が薄く、結局読み終わると「?」となる。

要は、年を取ったり、傷つく経験をしていくと、心が冷めて、他人に関心が持てなくなってしまい、世界がどんどん狭くなっていき、悪循環になってしまう。

なので、いろいろ心理学のテクニックを使って、心を温めなおしましょう、という本である。

ぶっちゃけ48個は多い。

より読み込むためには

おそらく、次の2点に集中して読むのがいいのだろう。

  • 太字の部分
  • 著者が、実際にした行動
    • 合コンに年100回行ったとか

すると、例の有効性や論理性の欠落に気を取られなくなるし、著者の行動に基づいている、本当に信頼できそうな部分だけ読むことができる。おまけに、この方法なら一瞬で読み終わることができるのだ。

【書評】トニオ・クレーゲル/ヴェニスに死す(トーマス・マン)【31冊目】

概要

真に孤独な人間、決して明るくは生きられないが、才能によって救われているような人間の内面をこれでもかというほど緻密に描いた短編。ノーベル文学賞。

この本の美しさ。文章の美しさ。孤独な人間の悲しさ、美しさ。単に面白いだけではなく、本当に感動できるのがこの小説である。

「トニオ・クレーゲル」は120ページしか無いし、それで何度も読み返すほど感動できるのだから、読むべき。

【書評】野村再生工場(野村克也)【26冊目】

概要

野球監督が選手の育て方について書いた本。

書いてある内容がいい。

  • チームワークの重要性
    • 特にエースを育てることの重要性
  • 押し付けではなく自ら気づくことの重要性

チームワーク理論がいい。とにかく「エース」を如何に育てるかに注力するという哲学である。チームワークが大切だから突出した個人を排除するというのがありがちだが、野村監督の理論では、チームワークとは、大多数の凡人が、規範となる突出した個人の真似をしていくことであるという逆の発想だ。

描かれ方もいい。

この手の本は、作者の自伝から始まるものが多いが、そうすると退屈で眠くなってしまいがち、この本では作者の自伝は最終章である。この人は、徹底して他人の目線に立てる人で、だからこそ育てるのが上手いのに違いない。

【書評】仕事は楽しいかね?2(デイル・ドーテン)【8冊目】

概要

1巻で成功を収めた主人公は、職場での、部下の代わりに火消しを続ける日々に限界を感じ、かつての師に教えを請いに行く。

「仕事は楽しいかね?」の続編は上司と部下の人間関係の本である。平社員が1巻を読んで管理職に出世したら、それも束の間、次に巻き込まれるのは板挟みの人間関係のつらさだということだろう。

面白いが、題材が身近な分、1巻ほど面白くはない。でも、この本の課題には真剣に取り組む価値がある。

結局、この本の目指す上司の仕事とは、以下のようになるだろう。

  • 最高の労働環境を作る
  • 最高の人材を集める
  • 管理を放棄し、さらに権限を委譲する

ピープルウェアという書籍でも、似た哲学が語られている。