【書評】ある出稼石工の回想(マルタン・ナド)【2冊目】

ここに、誰も知らない本がある。「ある出稼石工の回想」だ。

この本は、現代日本に生きる我々に何の関係も無いとも言える。だが、虐げられた労働者が、どう運命を、世界を変えて行ったかという、普遍的なストーリーが書かれた本だ。

石工でありながら高度な教育を受け、危険な仕事をよる9時までこなした後、11時まで文盲の労働者のために学校を開く。仕事は真面目で、才気に溢れ、人の何倍も稼ぎ、父親の莫大な借金を繰り上げ返済してしまう。

非常に優れて魅力的な人間でありながら、出稼ぎの身の上から、妻には1年に1度しか逢えないナド。

彼は政治家になり、知事に上り詰め、世界を変えようとするが・・・

人間臭く、限りなくリアリティに溢れていながら、力強く運命を開く冒険譚だ。このまま埋もれてしまうには、あまりに面白い。