【書評】痩せゆく男(スティーブン・キング)【58冊目】

概要

ジプシーを轢き殺し、仲間と事件を隠蔽した弁護士が呪いにより何を食べても痩せ続けていくホラー。

これは面白い。

「痩せる」は、幸福な感じのする言葉だ。多くの人がダイエットしようとしては挫折して、苦しんでいる。

この本では、痩せることは凄く恐ろしいことなのだ。

この本がすごいのは、時間軸がリアルに描き出されていること。時間が経つと、人の心は変わっていく。友人だと思っていた医者が、最初は親切に手を尽くしてくれるが、次第に何をしても痩せていくことから無能感に苛まれ、主人公の存在を疎ましく思うようになっていく。

肥っている時は仲の良かった妻は、実は交通事故の原因を作った人間なのに、痩せていかない。その罪悪感は妻の精神をゆがめ、「頑なに現代医療を拒む頑固者の夫」というイメージに固定化してゆき、夫婦の関係は徐々にこじれていく。

友人の医者と妻は周囲に自分たちの信念を広げ、主人公は知り合い全員から気違い扱いをされるようになっていき、最後には強制入院命令まで発行されてしまう。

この、人の心の弱さと醜さが時間軸に沿って作り出す、社会的なダイナミズムが、秀逸だ。

もちろん、肉体的にもダメージは加速していく。痩せるだけで風邪は致命的になり、カリウムを飲み続けなければ不整脈を止められない。

万事休した彼のもとに現れたマフィアのボスの友人であるジネリ。魅力あふれるキャラクターである彼は大活躍し、たった一人の戦いで遂に状況をひっくり返すのだが・・・?!

結末も、予想できない秀逸な終わり方。スティーブン・キングの「ミスト」と同じくらい完全な後味の悪い終わり方だ。

「ププファーガード・アンシクテット」

【書評】小さなチーム、大きな仕事(ジェイソン・フリード、デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン)【54冊目】

概要

常識の逆、つまり会社を小さく保つ術を説く経営書。by 37 signals

2010年当時はこれが最新の「哲学」で、本屋に平積みされていた。原題は”Rework”。労働に対する世間の常識を疑い、労働を組み立てなおすという本だ。

この本は売れた。なんといっても37 signalsという会社は、Ruby on Railsを作った会社だからだ。

目次

本書は何の本で、何が言いたいのだろうか。本書はカリスマ経営者が書いたものだけに引き込まれるものがあり、読むだけでハイテンションになってくる。これはこれですごい才能だが、冷静に読むと脈絡が難しい。

そこで目次に戻ってみようと思う。

  1. 見直す 常識を疑うことを説いている。
  2. 先へ進む スモールビジネスを今すぐ始めろと説いている。
  3. 進展 本質にのみフォーカスし、製品の核を育てる方法を説いている。
  4. 生産性 より少なく働き、無駄をそぎ落とすことについて説いている。
  5. 競合相手 本質で勝つために、それ以外はすべて競合相手以下に抑えるべきと説いている。
  6. 進化 顧客の声を否定し、アウフヘーベンすることから現状脱却が生まれると説いている。
  7. プロモーション 大々的な広告でない、効率的なプロモーションについて説いている。
  8. 人を雇う 最高の逸材のみを雇い、人を増やさないべきだと説いている。
  9. ダメージコントロール 素早く対応することで最小労力でダメージを軽減すべきと説いている。
  10. 文化 本物の文化を自然に育てる方法について説いている。
  11. 最後に ひらめきは今実行しなければ賞味期限を過ぎてしまうと説いている。

つまり、これは読者が会社を作って、軌道に乗り、文化が定着するまでに「気を付けるべきこと集」である。ただ重要なのが、このまとまりのない本の底に流れる彼らの信念。

「小さい組織であり続けることの計り知れないメリット」

だ。

【書評】アホでマヌケなアメリカ白人(マイケル・ムーア)【41冊目】

概要

元アメリカ大統領ブッシュをバカにする本。

わざわざこの本が出た15年後に買って、読んでしまったのは私ぐらいのものだろう。

マイケルムーアのアジる能力は、本物だと思った。

が、この手の陰謀論はほぼ当たらないのだなあと思ったのも事実。なんだか侘しい気持ちになった。

【書評】アメリカの鱒釣り(ブローティガン)【19冊目】

概要

天才が書いた短編小説。

どの話も2ページほどで、最長でも10ページほどである。

アメリカの鱒釣りの詩的世界は、言語の中にしか存在しない世界だ。どうしてもこの小説を現実の世界でやると、どういう光景になるのか想像がつかない。

こんな小説が書ける人間が他にいるのだろうか。

困ったことに、単にユーモアと見ても抜群に面白いのだ。しかも全体を貫く通奏低音のようなテーマもある。鱒なのだが。

世界で最も面白い短編小説の一つであるに違いない。

【書評】どこにもない国(アメリカ作家)【18冊目】

概要

幻想小説のアンソロジーなのだが・・・

この本に収められている作品は本当に奇怪である。どこで起きたのか?いつ起きたのか?なぜ起きたのか?なぜそんなことを思いついたのか?全くわからない話ばかりだ。しかも単純に面白い。

個人的に、小説や映画といったものは、そのストーリーが全く聞いたことがないものであるという評判がなければ観ないようにしている。

またこのパターンか、と思って失望するから。

同じような価値観の人には、これは鉄板だと是非推薦したい。