【書評】石の猿(ジェフリー・ディーヴァー)【97冊目】

概要

中国からアメリカへの密入国を手引きする殺し屋”ゴースト”と、車椅子の犯罪捜査アドバイザーライムとの闘い

映画で有名なボーン・コレクターの3作目とのこと。そうとは知らず読んでしまった。もったいなかった。のっけから、説明なしに大量の前作からと思われる登場人物が出てきて混乱してしまった。

面白い。スリルもあるけど、こういうのは正義は勝つからなー・・・と思っていると、予想範囲内で終わってしまう。どんでん返しが2度用意されているが、どちらも想定の範囲内というか・・・。

同じアメリカの小説でも、想像の斜め上を行き続ける犬の力には及ばない。

敵役の”ゴースト”は残虐非道だが、非常に魅力的に仕上がっている。タイプは違うが、ハンニバル・レクターに匹敵する魅力。悪役好きの人にはたまらないかもしれない。

【書評】旅の報酬(成瀬勇輝)【96冊目】

概要

旅はよい

TABILABOの創業者の本ということで買ったが、悲しいほど内容が薄っぺらい。なんかジョブズを神格化していて、神であるジョブズがインドに行けと言っているから世界を旅しよう、みたいな感じ。「ジョブズがパソコンを発明した」「ジョブズがトイストーリーを作った」というような、悲しいほど初歩的な事実誤認まである。

基本的には、各章、名が売れてる友達の書いたものを引用して終わり。

中でも2章3節(“常識をずらす”)なんてすごい。有名な2ちゃんねる発祥のコピペが貼ってあって、「この話には考えさせられる。」と書いてあって終わり。10年前から知っとるわ!これが旅の33の確かな価値のうちの1つ、なんだってさ・・・。こういうことをする著者だ。ぜひ、買う前にこの本のクオリティを見立てる試金石として、立ち読みしていただきたい。

ゴミを33個集めても、ゴミが出来上がるにすぎない。しょせんTABILABOは、意識高い系の海外志向に過ぎないのだと思う。

メキシコの田舎町。海岸に小さなボートが停泊していた。
メキシコ人の漁師が小さな網に魚をとってきた。
その魚はなんとも生きがいい。それを見たアメリカ人旅行者は、

「すばらしい魚だね。どれくらいの時間、漁をしていたの」 と尋ねた。

すると漁師は

「そんなに長い時間じゃないよ」
と答えた。旅行者が

「もっと漁をしていたら、もっと魚が獲れたんだろうね。おしいなあ」
と言うと、
漁師は、自分と自分の家族が食べるにはこれで十分だと言った。

「それじゃあ、あまった時間でいったい何をするの」
と旅行者が聞くと、漁師は、

「日が高くなるまでゆっくり寝て、それから漁に出る。戻ってきたら子どもと遊んで、女房とシエスタして。 夜になったら友達と一杯やって、ギターを弾いて、歌をうたって…ああ、これでもう一日終わりだね」

すると旅行者はまじめな顔で漁師に向かってこう言った。

「ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した人間として、
きみにアドバイスしよう。
いいかい、きみは毎日、もっと長い時間、漁をするべきだ。
それであまった魚は売る。
お金が貯まったら大きな漁船を買う。そうすると漁獲高は上がり、儲けも増える。
その儲けで漁船を2隻、3隻と増やしていくんだ。
やがて大漁船団ができるまでね。
そうしたら仲介人に魚を売るのはやめだ。
自前の水産品加工工場を建てて、そこに魚を入れる。
その頃にはきみはこのちっぽけな村を出てメキソコシティに引っ越し、
ロサンゼルス、ニューヨークへと進出していくだろう。
きみはマンハッタンのオフィスビルから企業の指揮をとるんだ」

漁師は尋ねた。

「そうなるまでにどれくらいかかるのかね」

「二〇年、いやおそらく二五年でそこまでいくね」

「それからどうなるの」

「それから? そのときは本当にすごいことになるよ」
と旅行者はにんまりと笑い、

「今度は株を売却して、きみは億万長者になるのさ」

「それで?」

「そうしたら引退して、海岸近くの小さな村に住んで、
日が高くなるまでゆっくり寝て、 日中は釣りをしたり、
子どもと遊んだり、奥さんとシエスタして過ごして、
夜になったら友達と一杯やって、ギターを弾いて、
歌をうたって過ごすんだ。 どうだい。すばらしいだろう」

【書評】コンサルティングの悪魔 日本企業を食い荒らす騙しの手口(ルイス・ピーノルト)【95冊目】

概要

コンサルティング業界でパートナーまで上り詰めた者の後悔・懺悔録。

「深海、南極大陸、ピラミッド、月!」

MBAを持っていないのかとプレッシャーをかけられ、激昂して著者が叫んだ言葉。

「嘘をつく、盗む、騙す」

特に有望な若い候補者を試すために、著者が採用面接で投げかけた質問の言葉。

私が知り合ったコンサルタントは、パブリックなデータソースを利用し、「正攻法」で仕事をする人たちだったと思われるし、それほどの悪人もいなかったと思う。しかし残念ながら、著者のほうがそういった人たちの万倍も仕事ができるし、遥かに魅力的であるように思われる。

嘘をつく、盗む、騙す。海底開発と日本に興味を持ち、日本鋼管で貧乏生活を送っていた著者に、転機が訪れる。コンサルタント1年目で、著者は立派な産業スパイとなる。そして、半年ごとに、信じられないような成果を信じられないような方法で上げていく。痛快である。

賢く、何にも洗脳されずに自分の頭ですべてを考え、多言語を操り、魅力的で、異性にモテ、「真に人生を楽しむ方法」、ナイトライフの過ごし方を知っており、しこたま飲んでも翌日にはそれをおくびにも出さない。出会う人間を全て仲間にし、吸血鬼のように全てを奪い取る。

しかし、段々、何かが壊れていく。7年目に達するころ(260ページ)には、完全に壊れてしまう。

【書評】悪について(エーリッヒ・フロム)【94冊目】

概要

悪を哲学的に解明する。

フロムは「自由からの逃走」の著者。加藤諦三氏の本の参考文献となっていたので読んだ。

悪は次の3つから生じるという。

  1. ネクロフィリア
  2. ナルシシズム
  3. 近親相姦的固着(甘え)

ナルシシズムについては納得できるが、ネクロフィリアについては納得できない。

ネクロフィリアは死に憧れる傾向で、誤解を恐れずに言えば「根暗」に近いような描写のされ方である。例えば、「明日学校爆発しないかなー」とか、「戦争/災害が起きてすべてリセットされないかなー」とか、そのような性向のことだ。

そんなにたくさんの人がネクロフィリアなのだろうか。

近親相姦というのは、エディプス・コンプレックス的な話だった。母に甘えたいとか、母体に戻りたいとかいう、全ての人の根底にある甘えのことだ。

だから、この3つによる初期の症状は退行であり、末期の症状が悪だということになる。

【書評】リーダーのための「レジリエンス」入門(久世浩司)【93冊目】

概要

レジリエンスリーダーシップとは何か。

リーダーや管理職は「感情労働」である。多くの多様な部下を「使って」成果を上げるには、ありとあらゆる感情を扱えなくてはならない。

感情を無視して、強権的なカリスマ型リーダーシップに任せるという手は、通用しなくなってきている。なぜなら、社会全体がナレッジワーカーにシフトしているから。ナレッジワーカーは専門性がなかったり、間違った知識をひけらかす浅はかな人間を嫌う。だから、強権的な人間には本心からついていかないことがほとんどだ。

それより、専門家が弱い「変化や危機」に対して打たれ強く、失敗してもすぐ立ち上がる頼もしいリーダーが必要とされている。この打たれ強さの能力を、「レジリエンス」と言う。この能力は、感情を扱う能力でもある。

この能力の利点は、次の5つに繋がることにある。

  1. 楽観力・胆力
  2. 熱意の持続
  3. 利他性
  4. 根拠のある自信
  5. 意志と勇気

 

【書評】メニューの読み方 うんちく・フランス料理(見田盛夫)【92冊目】

概要

フランス料理のメニューを読めるようになるにはどのようにトレーニングすればいいか。

フランス料理でコースを頼むとつまらない。寿司屋でおまかせを頼むようなものだ。そのとき食べたいものを、アラカルトで一品ずつ頼みたい。そうでなくては、牛肉やスズキや鯛ばかり食べさせられてしまう。

著者は会社員でありながら、フランスで一流レストランを食べ歩くことを夢見、独学でフランス語のメニューの読み方をマスターした。いい意味の変人だ。その方法論を、惜しげもなく公開してくれる。

しかも、この本を持ち歩けば、フランスを闊歩して好きに料理を頼めるようにと考えてくれている。

  • 単語集
  • ソース類単語集
  • a la で始まるメニュー語集

といった膨大な付録が巻末についているのだ。

本文については、著者が食べた思い出に残る料理とともに、実際のメニューの解読方法がつづられている。あまりに食べた料理が膨大で、感心することしきりである。

このような書物を著す人がいるという事実に、頭が下がる思い。

【書評】パスタでたどるイタリア史(池上俊一)【91冊目】

概要

パスタの歴史!

まず、本を開くといきなり16頁ものフルカラー写真。パスタとともにあるイタリア人の生活が生き生きと捉えられている。

多くの日本人はパスタが大好きだ。

パスタの歴史をひもとくと、大航海時代以前と以後でかなり違う。

パスタの発明までは、まず小麦の栽培がメソポタミアで紀元前8000年前後に始まり、紀元前700年前後にはローマ帝国で前パスタ的なものが作られていた。しかし、それはまだパスタではなく、

  • ラザーニャのようなシート型
  • 細切りにして油で揚げる
  • 焼く
  • ハチミツや胡椒と和える

といった食べられ方をしていたのだ。

しかも、中世の王侯貴族らの主食は肉であり、油はラードであった。そのような食事以外は、女性的なものとしてさげすまれ、長い間パスタは日の目を見なかった。当然、パスタやオリーブオイルは女性的な食事だった。

パスタの復活は13世紀末である。しかし依然として、

  • ラザーニャ状
  • ブロードで煮る
  • 四角く切って煮る
  • 粉チーズをかけて食べる

といった現代とはかけ離れたものであった。マッケローニと総称され、「薬」「貴重品」として扱われており、製麺所が次第に増えていった。そしてついにヴェルミチェッリ、今日のスパゲッティの形状のものが誕生した。パスタは爆発的に流行し、1614年には規制されるほどであった。

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しかし驚くべきに、パスタは「手づかみ」でチーズや「砂糖」をかけて食べられていたのだ。

我々が知っているパスタは、トマトとニンニク、唐辛子が無ければ成り立たないから、驚きだ。トマトやその他の材料との出会いは、新大陸からそれらがもたらされるまで待たなければならないのだ。

その他のエピソード

上記のエピソードだけでは、本書の魅力の10分の1も伝えられていない。

例えば、誰もが働かずぐーたら暮らしていて、パスタが山の上から流れてくるのでそれを食べれば生きていけるという楽園「クッカーニャの国」の存在。

そして、パスタを禁じ、芸術的な肉の盛り付けに腐心したという「未来派」の人々。

我々が知らなかったような驚く歴史がこれでもかと語られるのだ。

 

【書評】ソフィーの世界(ヨースタイン・ゴルデル)【90冊目】

概要

ノルウェーの14歳の女の子ソフィーのもとに、見知らぬ哲学者から哲学講義が届く。

世界中、35か国で2300万部のベストセラーになったソフィーの世界は、1991年に出版された。インターネットが無かった時代だ。

この小説は、ミステリー小説でありながら、ギリシャ哲学からフロイトまでをカバーする哲学講義でもある。他に、「薄く広くカバーしてくれる哲学入門書」は数あれど、この本では紹介される哲学者のセレクションが、ミステリーのトリックに密接してるところがユニークだ。

そして、ミステリーとして普通に面白いことが、この本が世界的ベストセラーたる所以かと思う。それに、子供(作者には二人のご子息がある)に対し、哲学的な目覚めをもった人生を歩んでほしいという愛が伝わってくる。

哲学者の採用方法

ギリシャ~ルネサンス(デカルトの前)までは、どの本でも得られる知識は同じだろうと思う。具体的には、

  • (北欧)神話
  • ギリシャの自然哲学 ヘラクレイトス・タレスetc…
  • ソクラテス
  • プラトン
  • アリストテレス
  • ディオゲネス
  • ゼノン
  • エピクロス
  • プロティノス
  • アウグスティヌス
  • トマス・アクィナス
  • ルソー

しかし、デカルトあたりから、爆発的に哲学が発展したため、何を解説に入れるかと言うセレクションが問われる。この本では、合理主義vs経験主義vsロマン主義を軸にする。

  • デカルト
  • スピノザ
  • ロック
  • ヒューム
  • バークリー
  • カント
  • ロマン主義
  • ヘーゲル

最後に、物語の根幹をなすのが実存主義になる。ここら辺からチョイスが偏ってくる。

  • キルケゴール
  • マルクス
  • ダーウィン
  • フロイト
  • サルトル

確かにショーペンハウアー・ニーチェ・ハイデガー・ヴィトゲンシュタインあたりを出すとメルヘンミステリーとして上手くいかなそうではある。

【書評】西洋絵画の歴史1(高階秀爾・遠山公一)【89冊目】

概要

ルネサンスの代表作を200点前後含む、文庫サイズのフルカラー写真集。

美術館を1週間分回ってようやく見られるほどの量の絵画が、文庫サイズにフルカラーで収録されているという、驚愕の本。

解説も素晴らしく、ルネサンスがいつ始まって、代表作がどのようなコンテキストを持っているのか明らかにしてくれる。

1420年のマザッチョを皮切りに載っている。

この本が素晴らしいのは、絵画だけでなく建物の中の写真がふんだんに乗っていることだ。ルネサンス絵画は建物と組み合わせて宗教的体験を可能にする施設として機能してきたが、

  • 礼拝堂
  • 大聖堂
  • 天井
  • 祭壇
  • 内陣障壁

などが、間取り図と写真を交えて解説されている。

場所を取らないし、この本が1200円とは、信じられないくらい安いと思う。

【書評】アラン島(シング)【88冊目】

概要

1899年のアイルランドの孤島での生活について。

孤独な戯曲家シングは友人の勧めでアイルランドのアラン島に1899年にわたった。表向きはゲール語を学ぶことだった。アラン島では、文明と隔絶した生活が送られていた。

ページをめくると、最初にアラン島の生活の写真が4枚ある。石を積み上げた家と、老婆と、大きな豚が写っている。

村の老人たちから聞いた話が集められている。妖精が信じられていたため、妖精の話が多い。

「失われた日本人」に少し近い趣がある。