【書評】グローバル資本主義を卒業した僕の選択と結論(石井至)【23冊目】

概要

東大理Ⅲ出身の著者が投資銀行に入り、2年目で年収5000万を叩き出し、32歳でアーリーリタイアした。いったい彼は何を考えて働き始めどういう結論に至り仕事を辞めたのか。

もう概要だけでほぼほぼ紹介を終えてしまったのだが、読んでいてこの人は本当に頭がいいなあと感心する。こういう人の思考回路を垣間見て見るのも、面白いのでは。

ところで、なぜ2年目で5000万円もらえる人がいるのだろうか。それは、業種間格差があるからであると思われる。マネージャーは数億貰っていたと書いてあるから、当時この業種では5000万円は平均以下だったのではないか。

もう長い歴史で証明されているように、資本主義と金融経済は富を偏らせるシステムである。そのことを20歳くらいまで認識していたかどうかで、人生は大きく変わってしまう。

資本主義は残酷と言えば残酷だ。

【書評】グローバル・マインド 超一流の思考原理(藤井清孝)【16冊目】

概要

マッキンゼーからハーバードビジネススクール、ウォール街、大企業の経営者、シリコンバレーへという超一流の経歴を突っ走ってきた著者が、自伝を通して、日本の教育問題「正解への呪縛」を提起する。

著者は新卒で三菱商事を蹴ってマッキンゼーに入り、ルイヴィトン日本支社の社長などをしていた人。

中身はまさに「超一流の思考原理」で、こんな考え方をする人がいるのかという実例が並んでいて面白い。

世界のほとんどの富を握っていると言われる富裕層の世界を垣間見れるのも面白い。

結論である教育問題についても、納得できる。皮肉なことに、この人のきらびやかな経歴自体が「正解への呪縛」に弱い日本人に突き刺さっている気がするのだ。この本を読んだ若者ほど、ハーバードでMBAを取ることを夢見るのではないだろうか?・・・

【書評】最強組織の法則(ピーター・センゲ)【15冊目】

概要

システム理論学者のピーター・センゲが、システム理論を経営と組織論に当てはめた理論書。

システム思考というのは、個別最適化の逆で、全体を俯瞰して、パターンを見つけるようなプロセスのこと。

伝統的には、問題に取り組むときはそれを細かい要素に分け、コントロール可能な部分に介入する。これは還元論とか、個別最適化とか、分割統治法とか言われている考え方である。

システム思考の場合は、全体を俯瞰してパターンを見つけてから、ボトルネックの部分にコントロール可能な変数がないか探し、介入するという方法をとる。

一長一短であるが、還元論の場合に絶対に解決できない問題が解決する場合があるのと、レバレッジが効いて効率が良い場合があるのがシステム思考の特徴である。

この本は、組織論への応用が主眼だが、本当に面白いのはこのシステムのパターン7種類を説明した部分だ。

組織論

これからの時代の強い組織とは、学習する組織である。

それを構成する要素は、組織の「志」、組織内の「会話」、そして「システム思考」だ。

組織が大志をもつとは、個人の専門性が非常に高くありながら、目指すべき理想のビジョンが共有されていること。

組織の会話は、ビジョンを共通言語として使い、さらに問題に向き合ったものでなければならない。ギャップが正しくとらえられ共通認識にならないと、一丸となって志に向かってテンションを保つことができない。

そして、根本的で効果的に問題にアタックするための武器がシステム思考である。

システム思考

構造的問題のパターンは、次のパターンを持つことが多い。

  1. 成長の限界(Limits to Growth)
  2. 問題のすり替え(Shifting the Burden)

このような問題は、ほとんどの人が全体像をつかめないことから起きている。システム思考を共通言語化することで、問題の全体像を共有(Shared Vision/Mental Model)することができる。

まとめ

学習する組織については、理論上発明されたが、コモディティ化はされていない状態で、それを実現するために著者はこの本を書いたという。しかし、こんなに難しい理論が、コモディティ化することなどありえるのだろうか。

たぶんこの理論は難しすぎるのだ。なぜなら、日本語訳は、なんとこの本の本質であるシステム思考の部分を章ごと省略してしまっているのだから。訳者が内容を理解できなかった可能性もあるし、訳者が「一般人には理解できないから飛ばしたほうが分かりやすいだろう」と判断した可能性もある。

とりあえずは、未来ある頭のいい人がこの本を読んでくれることを期待している。

【書評】これが働きたい会社だ(渡邉正裕)【13冊目】

概要

ひたすら具体的に、有名大企業24社について、何歳時点の年収がいくらとか、傷心の仕組みとかが書かれている。全て、社員インタビューに基づいており、信憑性が高い。

ありそうでなかった本。こういう本は抽象的なものが多いが、ここまで分かりやすく実用的なものはなかなか出ないだろう。少々情報は古いが、いつの時代も同じようなことがやられているものだ。空虚な就活本を読むよりはこれを読んだほうがいい。興味があれば、買っておいたほうがいい。企業リストは以下の通りだ。

  1. トヨタ
  2. 日産
  3. NEC
  4. キヤノン
  5. シャープ
  6. 松下電器
  7. サントリー
  8. ソニー
  9. JTB
  10. 富士通
  11. 三井物産
  12. 三菱商事
  13. みずほ銀行
  14. 日本生命
  15. 野村総研
  16. 全日本空輸
  17. リクルート
  18. アクセンチュア
  19. NTTデータ
  20. NHK
  21. IBM
  22. NTTドコモ
  23. 朝日新聞
  24. 東京海上火災保険

【書評】おざわせんせい(博報堂)【11冊目】

概要

伝説の仕事の鬼であるおざわせんせいの遺した迷言を部下たちが集めたもの。

これは面白い。おざわせんせいは、「アサヒスーパードライ」のCMを作った人。また、「プロフェッショナルアイディア」の著者である。広告業界からは、「アイデアのつくり方」など、この手の本がよく出ている。

以下の名言に共感できれば、まちがいなく値段分は楽しめるだろう。

  • 世界中探したのか?
  • じゃあ、今そこでNASAに電話して。
  • 戦争の最中に、弾丸の込め方を教えている暇はない。
  • 一般人は黙ってろ。
  • お前は鉈だ。

【書評】働き方の教科書(新将命)【10冊目】

概要

働く上での心構えの本。

6社で経営陣をやり、ジョンソン・エンド・ジョンソンの社長に上り詰めた人が書いた。

著者は存命中の人物である(オフィシャルサイト)。

この本の主張は、これをやれば絶対成功するなどというものはないので、基本を極め、凡事徹底せよということ。これは難しいことで、観点のリストがコンパクトにまとまっていることにもこの本の価値があると思う。

  • 情熱を持つ
  • 実務的である
  • 学び努力し続ける
  • 人間を見抜く
  • 運を運んでくる

大成した人ならではの、温かみのある語り口にも惹かれる。この本に費やしたお金のもとは必ず取れるだろう。

【書評】ビッグ・ツリー(佐々木常夫)【9冊目】

概要

自閉症の子と鬱病の妻を守りながら、主人公が東洋レーヨン子会社社長に上り詰めるまでの軌跡。

あらすじを読んだだけでは想像できない生々しさがある。

著者が完璧人間過ぎて、自然と頭を垂れてしまう。もちろん著者が人間である以上、その善意が裏目に出ることもある。その度に心折れず立ち上がる著者の姿は勇ましく神々しい。

この本を読んだ人は、自分が不幸だと愚痴をこぼす前に、この本を思い出すだろう。一家の家長が背負うべき重荷を教えてくれる。

【書評】仕事は楽しいかね?2(デイル・ドーテン)【8冊目】

概要

1巻で成功を収めた主人公は、職場での、部下の代わりに火消しを続ける日々に限界を感じ、かつての師に教えを請いに行く。

「仕事は楽しいかね?」の続編は上司と部下の人間関係の本である。平社員が1巻を読んで管理職に出世したら、それも束の間、次に巻き込まれるのは板挟みの人間関係のつらさだということだろう。

面白いが、題材が身近な分、1巻ほど面白くはない。でも、この本の課題には真剣に取り組む価値がある。

結局、この本の目指す上司の仕事とは、以下のようになるだろう。

  • 最高の労働環境を作る
  • 最高の人材を集める
  • 管理を放棄し、さらに権限を委譲する

ピープルウェアという書籍でも、似た哲学が語られている。

【書評】仕事は楽しいかね?(デイル・ドーテン)【7冊目】

概要

飛行機が大雪で止まった夜の空港で、男は赤ら顔の老人と出会う。老人は男に問う。

「仕事は楽しいかね?」

この本の最も本質的なメッセージは、

「実験に失敗はない」

だろう。

一つのことを極めるという考え方、また人生には「目的」がなければならないという考え方には穴がある。なぜなら、人生は「失敗」の連続だからである。

一度失敗した人間は、もう一つのことを極めることも、当初の人生の目的も果たすことはできない。だから無気力な大人になる。世間は夢を持つことを推奨するが、プロ野球選手になれなかった球児には冷たいのだ。

著者は、「2つ目のキャリアで成功した人たち」は驚くほど多いという。

  • エリツィン大統領は工事の現場監督を続けていた だろうし、
  • あるメジャーリーガーはサッカー選手を続けていた だろう

と言う。そして、これらの人々は「ゴールポイゾニング」に侵されず、生涯実験をやめなかったから成功できたのだと言うのだ。

人生とは「一つのつまらないこと」がずっと続いていくことだ。その一つが仕事であると思っている人は多いが、本当はつまらないのは、「飛び跳ねないこと(実験の欠如したクリエイティブさに欠ける働き方)」なのだと著者は言う。

閉塞的な状況を打破する糸口を探す勇気を与えてくれる本だ。

【書評】ザ・ゴール2(エリヤフ・ゴールドラット)【6冊目】

概要

「ザ・ゴール」の主人公は成功を収め、ユニコ社の多角化部門の社長として腕を振るっていたが、突然会社の売却が決定したのだった。残された時間は3ヶ月…

全体最適化の理論を現実に適用する際に役立つツールを伝授する内容。

この本で紹介されているツールは主に2つ。

  • ネガティブブランチ

だ。

雲の目的は、「コンフリクトに集中すること」。コンフリクトを図示して、共通理解を作る。また、どこを攻めるかについての議論を相手と協力して行うことができる。

ネガティブツリーの目的は、「根本原因を見つけること」。すべての問題をツリー状に繋げることで、部分最適化を避け全体最適化を行う。特に、根本原因を見つけ、それが他のすべての問題を引き起こしていることを、他人に納得させるために使われる。

この二つのツールで会社の売却は防がれ、子供も言うことを聞くようになる。コメディみたいだが、エンターテインメント性が高いとも捉えられるだろう。意外に子供を説得するシーンのほうがわかりやすいのだ。