【書評】牛肉資本主義 牛丼が食べられなくなる日(井上恭介)【37冊目】

概要

牛丼のこまめな値上げの裏にある、グローバルな変化を解説した本。

ジグレール教授の本にもある通り、穀物価格はファンドの先物取引の影響を受け、牛肉の価格はそれによって大幅に値上がりする。

しかし、最近の牛肉の値上がりには、実は中国が絡んでいるのだ。

中国の肉輸入量は、2014年時点で日本の2倍を突破。中国では伝統的に豚と羊と鶏が料理に使われる。しかし、今各地にステーキブームが起きており、どんどん牛食化が進んでいるのだ。

どんどん貧乏になる日本。どんどん豊かになる中国。単純に、高い価格を提示され、中国に日本が買い負けているという構図が生まれている。

ほんの40年前には全く考えられなかったことだが、お金がないために、牛肉が気軽に食べられなくなる日がやがて来ることはもはや確実なのだ。

【書評】最貧困女子(鈴木大介)【36冊目】

概要

日本最貧困のセックスワーカーたちにインタビューした本。

作者の問題意識は、最貧困女子がいわれのない誤解と迫害を受けていることである。世論からも、福祉からも、警察からも、買春男からも、同業者からも、彼女たちは迫害されている。

彼女たちは、親に捨てられ、性的暴力を加えられ、知的障害を抱えている。子供を抱えていて身動きもとれないが、誰も助けてくれない絶対的な孤独の中にいる。

著者は闇金融の社員などから彼女たちにアプローチしていき、「可視化」をすることに成功した。

著者は「どうしていいのかわからない」ということを認めているが、確かにどうすることもできない。このまま、何十年という時間が経っていくのか。いや、この本が注目されることに成功したからには、何かが変わる一歩が踏み出されたはずだと思う。

【書評】不思議な少年(マーク・トウェイン)【35冊目】

概要

1590年のオーストリア。ある日忽然と現れた美少年が、次々と奇跡を起こす。

少年の名はサタン―

マーク・トウェインの「人間とは何か」と同様、人間不信と人間への軽蔑に満ちた本。こっちは相手が心を読めるからさらにたちが悪い。そして時代は、魔女狩りの真っ最中。

サタンは何度も、人間は動物以下だとういうことを強調する。哀しく愚かな村人たちの行為が、読者をサタンに同調させる。

いわゆる「悪魔もの」の古典である。

【書評】物欲なき世界(菅付雅信)【34冊目】

概要

世界中で、消費文明が終わりを向かえている。物欲が無くなった世界では、何が求められるのだろうか。

これまで、消費の代表であるファッションは、服に集中していた。しかし、もう服は求められず、食品や雑貨が購買されるようになった。人々は、食品や雑貨に込められたストーリー、それらがもたらすライフスタイルの変化を期待して消費するようになったのだ。

「ライフスタイル専門誌」まで創刊され、代官山のツタヤでは売上一位を記録。人々はローカルな人間関係に回帰し、米国でも中国でも「ダウンシフト」、つまり、低消費化に向かう価値観への転換が進んでいる。

その行きつく先は、「働かずしてモノが手に入り」「ごく一握りの少数者以外は全員失業している国家」であるという。少数の労働者の上には富裕層である資本家が君臨する。富は集中する。ウォルマートを経営するウォルトン一家の総資産は15兆4000億円を超えた。その先にあるのは殆どの者にとっての、「貧しく豊かな世界」である。

【書評】出世する人は人事評価を気にしない(平康慶浩)【33冊目】

概要

経営層に対する人事評価の実際が書いてある本。

役員になるためには、良い駒であることではなく、良い駒を作れる能力があることが評価される。また、大失敗と大成功を繰り返した人が経営層になる傾向がある。

そのように成長するためには、二つの習慣が必要である。

  1. つながりを大切にする
  2. 神と話す

「神と話す」とは、自分の中の絶対的な価値観に照らして自問自答すること。

【書評】神狩り(山田正紀)【32冊目】

概要

神と闘う小説。

この小説はすさまじい。「神との戦い」は中二病業界の永遠のテーマだが、これほどリアルな神がかつてあっただろうか。神を見たことがないのにリアルとは変な表現だが、この小説の敵である神はかつてなくリアルとしか言いようがないのだ。

話の運び方も面白い。

冒頭で神に敗れる(と暗示される)ヴィトゲンシュタイン。傲慢で嫌われ者の天才言語学者の主人公。

遺跡に残された謎の記号<古代文字>。連想コンピュータ(現在の言葉でいえば『人工知能』だが)を駆使して謎を解くと、2つの論理記号と、13重の関係代名詞からなる言語であることが判明する。それが意味するのは・・・?

謎の組織、米軍基地、武装した学生・・・

この作品が執筆された時代背景もあいまって、傑作に仕上がっている。なんと、これは氏のデビュー作なのだそうだ。山田氏はこれを上回る作品を生み出せなかったと評する向きも多いようだ。

【書評】トニオ・クレーゲル/ヴェニスに死す(トーマス・マン)【31冊目】

概要

真に孤独な人間、決して明るくは生きられないが、才能によって救われているような人間の内面をこれでもかというほど緻密に描いた短編。ノーベル文学賞。

この本の美しさ。文章の美しさ。孤独な人間の悲しさ、美しさ。単に面白いだけではなく、本当に感動できるのがこの小説である。

「トニオ・クレーゲル」は120ページしか無いし、それで何度も読み返すほど感動できるのだから、読むべき。

【書評】聖書(ジョージ秋山)【30冊目】

概要

異色の漫画家が漫画で描く聖書。

聖書なので、面白くは無い。漫画とはいえ、あまり省略せずに、緻密に描いてあるから覚えることも多い。

創世紀からモーセの物語、そしてイスラエルが建国され、後継者のヨシュアが死ぬまでがまずは1巻のカバー範囲だ。これは旧約聖書で読むと馬鹿長いのである。熱心なキリスト教信者も、まずは漫画から入ると入りやすいのではなかろうか。

ジョージ秋山の漫画は面白い。「銭ゲバ」「アシュラ」と言った作品を描いた人だ。

【書評】キリスト教は邪教です!(ニーチェ)【29冊目】

概要

牧師の息子ニーチェが、キリスト教を罵倒し、ルサンチマンを遂げる。

 

パウロは焦って、
「もしキリストが本当に蘇ったのでなければ、我々の信仰は全て虚しい」
と言いました。本当にお下劣な野郎です!(p99)

タイトルは釣りっぽいが、非常に論理的に冷静にキリスト教を批判しているのである。

この本がすごいのは、

  • キリスト教成立の歴史を緻密に解剖し、見つかったアラを理詰めで個別撃破していく点
  • 他者への嫉妬という大多数の人が持つ心の弱さが、どのように「信仰」を支えていくかのメカニズムを詳細に描いた点

です。もちろん大多数の日本人はキリスト教を外側から眺めている。しかし、一度キリスト教を信じた人間の心には刺さるでしょう。むしろ、刺さりすぎて、ズタボロにされて、反ニーチェ派になってしまうかもしれない。

読むべき。

【書評】頭がよくなる本(トニー・ブザン)【28冊目】

概要

マインドマップを世に広めた本。

この本を読むと、たちどころに頭が良くなるのである。

そもそも頭が良いとはどういうことなのであろうか。MECEに分けるなら

  • 生得的に頭脳の性能が優れている。
  • 後天的な要因で頭脳の性能が優れている。

となる。

本を読んで頭が良くなるには、後者でなくてはならず、MECEに分けないなら、

  • 頭脳の使い方を改善する。
  • 頭脳を補佐するツールを利用する。
  • 頭脳を補佐する機械を頭に埋め込む。
  • 頭脳をまるごと他人のものと取り替える。

などと色々考えられるわけである。この本の主張は、「頭脳の使い方を改善しよう」「頭脳をマインドマップで補佐しよう」である。

つまりブレインハックの古典であると言える。

古典がすでにあるのにもかかわらず、みなさんご存知のように、ブレインハックの新刊は出続けている。

これは何かに似ていないだろうか?そう、「ダイエット本」である。

すなわち、この本は一つの市場を切り開いた歴史的な本であり、読んでおいた方がいい。

また、途中に偏差値30からハーヴァードに受かった少年などが出てくるので、あとは、統計を学び、自己責任で有限の時間を生きる覚悟を身につけるべきと言える。